目覚しの音で朱美は目を覚ました。寝汗をかいたのか、布団がじっ
とり濡れていて、気持ちの良くない目覚めだった。
　起き上がろうとすると、パジャマのズボンとパンティーがずり下
げられたままになっているのに気づく。あれは夢だったのか、それ
とも、と思った彼女は股間に手を伸ばす。別に腫れ物はないようだ。
ほっと一安心したのも束の間、伸ばした手に布団に付着していた白
い粘液がべったりとくっついていた。そのあまりの気持ち悪さと起
きた出来事のおぞましさに、朱美は絶叫した。
「きゃぁーーーっ！」
………。
　気絶していること約３時間。目覚し時計はとうに１０時を過ぎて
いた。何が起きているのか分からないまま、とにかく今日は会社を
休むしかない、彼女は会社に電話を入れた。
「おはようございます、谷口ですけど、中山チームリーダいますか？」
「中山ですね。少々お待ち下さいませ。」
　名乗ったはずなのに、なんだか接客のときのような言葉づかいが
気になった。電話口に中山が出る。
「おはよう谷口くん、どうした？」
　朱美は中山から高い信頼を寄せられている。社内には彼女の美貌
ゆえ、セクハラ寸前の会話しかしないようなオヤジどももいるには
いるが、むしろ情報処理技術者試験や英語検定試験の資格をいくつ
もとるなど、実際に仕事の出来る女性として、社内から注目されて
いる存在なのだ。中山も早くから頭角を現してきた出世頭の一人で、
チームリーダとは一般的に言うと課長クラスだ。まだ３０代前半の
若い課長、と言うことになる。
「あの、今日ちょっと体調悪いので、お休みします。申し訳ありま
せん。」
「あれ、本当に谷口くん？声色がなんか変わってるね。相当体調悪
いようだね。実は気味に任せたい仕事があったんだが、仕方ない、
明日その話をするよ。」
「すみません、それでは、失礼します。」
　自分でも声色が男性のように低くなっている感じは電話をしてい
て感じた。男の子が声変わりするときってこんな感じなのかしら？
などとつまらない瞬間、再び朱美は冷や汗をかく様な想像に捕らわ
れた。
「あたし、もしかして、このまま男になってしまうのかしら？」
　カフカの小説のような出来事が自分に起こっていることが信じら
れなかった。彼女は悶々とした想像に捕らわれながらも、外に出る
のが怖くて、再び布団の中に潜り込んだ。思春期の少年が夢精した
かのごとき精液の付いた掛け布団はティッシュできれいに拭き取ら
れた後（拭きながら、彼女が何度も目眩を起こしそうになったのは
言うまでもない）、外に干された、しみが見えないよう裏側にされ
て。