１９回忌

　今年の４月８日はちょっと厳しいかな、と思った。朝は朝会があるので
無理だし、昼も午後からミーティングを考えると抜けずらい。夜は宴会が
ある。宴会が早く終るならいけるかな、と言う感じだった。夜の宴会は同
窓会モードに近い懐かしい顔ぶれだった。２次会に参加してもいいかな、
と思ったが、実際問題として積もる話なんてのはあんまりなかったりする。
銀座の街を潜り抜けて丸の内線銀座駅へ、おっとせっかくの銀座だ、街頭
の花売りから花束を買って行こう。今日は財布が空っぽに近い、普通の花
束だと１０本くらい入っているが、頼んで３本に減らしてもらった。１０
本のままだったらお金が足りないところだった（苦笑）。丸の内線に花束
を持って乗る、しらふだったらもっと恥ずかしかったかもしれない。
　四谷三丁目で下車、やはりいつも花束を買っているキリシマフラワーは
閉店していた。その代り丸正で花束を売っていたようだったが。もうあの
事件から１８年も経っている、しかも１０時過ぎだ、現場には誰もいない。
それでも先客の花束があった。僕はその隣に自分の花束を置き、数秒合掌
してすぐにその場を立ち去った。以前だったら３０分くらいその場を離れ
られなかったのだが、すぐに立ち去れるのは時間が為せるわざだ。
　それにしても、自分は純情男なのだろうか、それともとてつもなくえげ
つない男なのだろうか、そんな疑問が頭を過ぎる。この歳になっても独身
なのは、誰か１人に決める、と言うことができないから。少なくとも今の
僕にとって、“一途さ”は幻想でしかない。別に女の子なら誰でもいいわ
けではない、そうは言っても１日３食カレーだったら飽きてしまうように、
一生一人の人を愛し続ける、と言うのはナンセンスだとすら思っている。
今ひいきのアイドルは一体何人いるだろうか（身の回りの女の子では二股
はかけられないので、アイドル専門である。風俗も金がかかるのでパス）。
その一方で、とうとう１９回忌まで毎年欠かさず（大阪勤務だった1995年
はさすがに無理だったが）ユッコの命日には四谷四丁目詣でをしている。
まぁ一言で言えば“女の子の愛し方が壊れてる”んだろうな。アイドルと
は言え、好きな女の子に自殺されちゃうなんてのは、まっとうな恋愛感覚
が壊されてしまうのだろう、と思う（とは言え、ちゃんと普通に家庭を築
けている元ユッコファンも大勢いるわけだが）。とにかく、僕の青春時代
は、見た目は文系大学生の自由気ままなものであったが、その裏で抑圧さ
れまくっていたのかもしれないな。もちろん男子たる者、誰もが通る道か
もしれない。でもいまだに解決できない不器用なヤツってのもいるんだよ、
オイラみたいに。
　そう言えば、サンミュージックの右方向２０ｍくらいにローソンがあっ
たはずなのだが、今はもうない。そもそもサンミュージック前の交差点も、
昔はトンネルへの道なんてなかったのだ。つまり、たくさんの時間があれ
から過ぎていったのだ。当時大学４年生だった僕は、もう不惑の歳・４０
歳が目の前である。どんどん変っていく世の中がある、その反対に１８年
の歳月を超えてユッコの命日に黙祷を捧げずにはいられないファンがいる。
これはひょっとすると、生涯の伴侶を得ていない（そして今後も得る可能
性は低い）僕にとって、今までで一番の“運命”が岡田有希子なのかもし
れない。