2002/4/8

　昨年は日曜だったので１２時２４分にはサンミュージック前にいられた
が、今年はまた平日に戻り、その時間はオフィスで弁当を食べながら過ご
していた。前日の遊び過ぎ（苦笑）で気力のない午後、それでもまぁその
日のノルマはこなして、７時半に会社を出た。
　近頃は仕事をうまく回せるようになった。その一方で半端でなく遊んで
いる。時間の使い方としては、人の２倍生きている、とも言える。しかし
他方で、僕はこの歳で独身どころか、女の子とちゃんと付き合ったことす
らない。つまり僕は他の人の半分しか生きていない。
　都営新宿線曙橋駅を降り、四谷消防署のある四谷三丁目交差点へ向かう。
いつもの通り、交差点の角にあるキリシマフラワーで花を買い、４丁目方
面へ歩く。
　彼女がこの世を去ったのはもう１６年も前だ。当時はこの日のことを一
生涯忘れない、と思っていても、１６年間忘れずにこの日になると毎年四
谷四丁目交差点に来てしまうというのは、やはり大きな因果だと思う。
　４月の頭と言うのは季節が移ろいやすく、酷く肌寒い年もあったが、今
年はむしろ蒸し暑い気候。季節が変わるということは、年月を刻むことで
もある。僕は来月で３８になる立派なオヤジだ。なのにこの日だけは永遠
に時間が止まったかのように（実際彼女はあの日から全く歳を取っていな
いのだが）、淡い恋心に突き動かされてしまう。
　現場には誰もいなかった。そして、花束が一つもなかった。時が流れた
のだなあ、と言う見方もできるが、実際にはそんなことはなくて、サンミュー
ジックの人が直前に片付けたりしたのであろう。食事をしたら戻ってくる
つもりで、数分でその場を後にした。
　僕はあの日から何も信じられなくなった。有形のものはもちろん、無形
のもの、例えば愛、ですらも信じられなくなった。逆に、この歳になって
も確固として大人を信じない自分だけが唯一にして最も信じられるものに
なった。それはきっと、“永遠”になってしまったユッコの存在に揺さぶ
られたからだ。
　食事から戻ってくると、現場には花束が増えていた。そして、その場に
立ち尽くす青年がいた。彼にとっても、１６年前から時間は止まったまま
だ。僕は彼の邪魔にならぬよう、静かにその場を通り過ぎて帰途に着いた。
　僕は人の２倍生きているかもしれないし、人の半分しか生きてないかも
しれない。でもそれが幸せか不幸せかは分からない。ただ言えるのは、ユッ
コは永遠で、僕の彼女への想いはその次に永遠だ、と言うこと。もし仮に
今の僕に好きな人が出来て結婚したとしても、おそらく彼女のように純粋
に愛することはできなくて、打算と妥協が塗り込められていて、程なく後
悔して終わるような気がする。彼女に比べたら、他の女の子は心の隙間を
埋めるだけの存在なのかもしれない。言い訳になるかもしれないが、恋人
を作ることより使い捨てのアイドルを追いかけることの方が楽しく感じる
のは、このような諦念から来ているのだと思う。もっとも、その隙間を作っ
たのもまた、岡田有希子その人なのだが。
　きっと僕の人生はこれからもこのまま変わることはないだろう。たとえ
変えようとしてもこの場所に戻ってくる、その中心には彼女がいるんだと
思う。