昔のレコードやテープを取り出したわけではないが、頭の中ではこの日朝か ら「二人だけのセレモニー」が鳴っていた。

　もう今日で１２回忌だ。四谷三丁目駅前で花束を買い、サンミュージックに 向かう途中、一体どのくらいの人が僕が花束を持っている理由を察しているだ ろうか、などと考えた。もう１１年も前の出来事だから、みんな忘れているに 違いない。だから、もう変に照れるのはやめようと思った。もちろん、現場に はすでに２０近い花束が沿えられていた。僕は今までならその場にしばしたた ずんでいたが、今年は１０秒ほど合掌して、すぐにその場を立ち去った。夜遅 かったせいもあるだろうが、いつまでもこの場に引き止められちゃいけない、 とでも感じたのに違いない。

　これって愛なのだろうか。広い意味で言えばそうかも知れないけど、自分で 愛と納得しているというわけではない。相手を思い焦がれる気持ちは、その姿 がこの世にいない今はとても弱い、と言うのが本当だ。それでも、４月８日に はここに来なければいけない、と言う強い衝動は衰えていない。全くと言って いいほどドラマチックさに欠けた僕の青春の中で、唯一過激でショッキングな 出来事だったせいだろう、僕はそれから全く成長していない。かと言って、子 供なまま、と言うのとも違う。とにかく、心の中の時計がそのまま止められて しまったような、そんな事件だった。その後もいくつか恋をしたが、今はとて も乾いた想いしか残っていない。

　そしてまた、９日からはまた普通の生活へ戻るのだ。