第５３回富士登山競走

　今年の夏はいつもにも増して暑いような気がする。多分、高円寺に引っ
越して来て初めての夏（正確には昨年の夏の終わりに越してきたので２
度目と言うことになろうが）だからだろう。あまり風通しのよさそうで
ないアパートでクーラーなしの生活をしているからなあ。その意味では、
週末には家でじっとしているだけで一日中汗をかくような時もあるが、
黙っていたら冷たい飲み物もアイスキャンディも食べられない、と言う
意味では健康的かもしれない。
　何はともあれ、今年も富士登山競走の季節がやってきた。最近ついて
ないことが多くて（某ＭＬでちょっとしたトラブルがあったり、自転車
で転んで擦り傷作ったり）ちょっと落ち込んでいる今日この頃、だが、
かつてのように若気の至りのごとくやる気万々で挑戦するばかりが富士
登山競走の魅力だとは思っていない。時間内に完走するだけの体力には
自信がなくなってしまったものがあるものの、それでも参加するだけの
体力があるってことはそれだけで素晴らしいことだ、と言うのが分かっ
てくるようになってきた。
　前日も暑かった。一つ悲しいことがあった。協力会社の新人さん（毎
日顔を合わせていた人だ）の訃報が入ってきた。享年２４歳、僕の３分
の２の年齢ではないか？特別不健康そうな人でもなかったのだが。交通
事故とかならともかく、病死と聞いて「ウソだろ？」と思ってしまった。
そんな簡単に人が死ぬなんて信じられないだろ？心不全とか言われたっ
て、こっちはこれから心臓に死ぬほど負担をかけるレースに参加すると
言うのに。実際のところ、あまりの驚きに悲しみと言うよりも怒りに近
い感情が起こっていた。なんで彼のようなこれからの人が死んで、憎た
らしい悪い連中が生きているのか？などと大袈裟に考えてしまった。彼
には冥福を祈りたい、そして、生きることの意味をもう一度問い直して
みたい、このレースで。
　午後、今年はこの日に会社の健康診断があった。登山競走用に着替え
などの余計な荷物を持って東陽町の街を歩く。これだけでもかなり消耗
するから、尿検査や血液検査で変なものが出なければいいが。
　地下鉄を乗り継いで新宿到着。学生は夏休みに入っているので、昼間
でもビジネスマンスタイルよりレジャースタイルの人間が多い。人込み
をかき分け新宿ターミナルに着き、バスを探す。まだ５時過ぎで、十分
に明るい、多分富士吉田に着いても暮れ切ってはいないはずだ。バスは
猛暑の東京を離れ、富士山の麓へと向かう。乗客のほとんどはレジャー
気分なのだろうが、僕とわずかな客だけがレースへ向けての緊張感のあ
る面持ちで乗り込んで行く。