第５１回富士登山競走

　今年は前日に会社を半休してみた。いつもは終業後に出かけると言う
ハードスケジュールだったが、今年は大会が土曜日と言うこともあり、
少し余裕をもらうことにした。午後休は初めてだったので、皆さん仕事
中に帰る、と言うのはちょっと気が引けるものがありましたが（苦笑）。
　夏の午後に重い荷物を持って東陽町駅へ向かう。自信がない、と言う
わけではないけれど、木曜からひき始めた鼻風邪にちょっと不安を感じ
る。そして、山の天気は大丈夫なのか？中央高速バスの出発時間までは
時間に余裕があるので、新宿バスターミナルに向かう途中で喫茶店で休
憩。
　バスに乗ってしまうと、風邪による疲れで熟睡していた。逆に言えば、
今年のレースはあまり余計なことを考えずに出場できたかもしれない。
毎年来ている刑部旅館についても、久しぶりに帰ってきた実家のように
（もうこの大会参加も７回目を数える、そして刑部旅館はすでに常宿だ）、
そそくさと夕食をいただき（お櫃に入ったご飯を３杯）、風呂に入って
１０時半の消灯後にすぐに眠りに落ちていた。
　毎年来るのは我々だけではなく、むしろこの旅館に泊ってレースに参
加する人たちは常連ばかりで、今では年に１度の同窓会状態である。こ
の宿の雰囲気がレース全体の雰囲気、とは言わないけれど、富士登山競
走と言うのは他の平地レースに比べて格段に参加者の常連度が高いと思
う。まぁ物理的に言っても、平地レースと山岳レースでは自ずと練習方
法が違うから、平地専門のランナーには出ずらいものがあるだろう。そ
れもあるが、このレースはランナーの間でも好き嫌いがハッキリ出る大
会のように思える。この厳しいレースをつらいと思ったら、一度出ても
それっきりだろうし、逆にこのレースならではの面白さに取りつかれた
ら我々のように毎年来ずにはいられない人になる。
　今回からこのレースの先輩である小原さんと梅津さんに加えて梅津さ
んのお連れが仲間に加わった。主に５ｋｍなどの中距離レースをやって
いる人がいきなりこのレースに参加する、と言うのがなかなか面白いと
思った（フルマラソンの経験なしで富士登山にチャレンジって人はさす
がに初耳^_^）。
　熟睡したおかげで、鼻風邪の辛さは少し抜けた。でも相変わらず朝食
は拷問で、寝起きが輪をかけて食欲を減退させる。今回は胃腸力はかな
りまずい。朝の便も宿では出ず、スタートの富士吉田市役所で下痢同然
の状態でトイレに駆け込んだり。まぁそれですっきりしたからＯＫなん
だけど。それにしても、不安定な天候の中、見事なほどレースの朝には
富士山の麗姿がくっきりと表れていて、この大会の奇跡を感じる（変わ
り易い山の天候の中、５１回を数えるこの大会で完全中止は１回、五合
目以上中止は３回しかない）。
　そんな風にトイレに行っていたから、スタートのピストルはスタート
ラインに立ってまもなくあっさりと鳴った。最初は先月末の試走での反
省を生かし、後半にバテが来ないように舗装道路の間はマイペースでゆっ
たりと走った。実際、この辺りはまだ曇っていたので、大きなエネルギー
消耗はなく中の茶屋まで到達した、スタートより４６分。更にマイペー
スで馬返しまで。風邪の不調はこれで大きなマイナスではないと確信し
た。良いタイムとは言えない（２：２５）が、そのまま五合目へ到達、
少し感じ始めた筋肉痛をほぐす程度の体操をして、再び頂上を目指す。
　さて、上ではもう歩きのレースだが、歩きは苦手なので不利な展開に
なるかと思ったが、以外と砂利道で抜くことが出来た。やはりスタミナ
を無駄遣いしなかった貯金が生きていると思った。
　しかし、やはり富士登山競走はそんな甘いものではなかった。岩道に
入ってから調子が狂い始める。いずれにせよ、七合目を超えたら基本的
に体力は残っていない、気力の勝負となる。八合目関門の通過時間はよ
く覚えていなかったが、おそらく２０分程度のオーバーと思われる。そ
のあと更に上を目指す。ところがここから上は深い霧に包まれ、かなり
寒くなっている。長袖のシャツを上に着て、頑張ってはみたが、風も強
く、上が見えない状態では長続きせず、２０分ほど上って九合目手前で
あきらめることにした。まぁ風邪気味の体調でここまで来れれば悔いは
ない。
　高い山はまた降りるのも過酷である。砂利道はよいのだが、岩場は着
地にかなり気を使う。足を滑らせて転ぶことも数回あったが（とりあえ
ず怪我はなかったが）、精根尽き果てているからそこから立ち上がるの
がまたしんどかったりする。登った標高差が２８００ｍ（７００→３５
００）、降りた標高差もまた１２００ｍ（３５００→２３００）あるの
だから。
　帰りのバスは１時間以上も待つことになり（スバルラインが混んでい
たようだ）、宿に戻る頃には５時近くになっていた。さくっと風呂に入っ
てすぐ帰宅。夏の大きなイベントが終わった。静かな避暑地の富士吉田
市から都心のど真ん中新宿に戻ってくると、それを肌で実感する。