自己責任主義が死刑制度を後押しする

　どうして21世紀の今日、世の中に自己責任主義が蔓延しているのだろうか。30
年くらい前にはお節介なくらい、ご近所の他人にお節介を焼き、銭湯で子どもた
ちが見知らぬ大人から躾をされたり、どこからともなくお見合い話がやってき
て、行き遅れの男女を結婚させたりしていた。
　自己責任主義はこうした隣人お節介主義と反比例するように増えてきた。と言
うか、お節介主義がシフトしたら自己責任主義へと移って行くのは理屈上自然な
成り行きなのだが。
　更に言うならば、自己責任主義は日本の経済力没落とも関連していると思う。
ＮＨＫでかつて好評を博していたプロジェクトＸ、番組ではその中の１人をヒー
ローとして奉り上げていたが、基本的にプロジェクトＸはメンバー全員の努力の
賜物である。そして、メンバー１人１人が能力を発揮するのは、各々の事件責任
が重くのし掛かった状態より、リーダーが責任を取る覚悟を決め、その背中をメ
ンバーに見せた時である。今の政治状況、社会状況を見るにつけ、そのような
リーダーシップを発揮する人材は確実に減って来ている。21世紀にもはやぶさの
ようなプロジェクトＸはあるが、少なくとも今世紀に大量のプロジェクトＸを成
功させるのは中国や韓国に移って行くと思われる。近々ではカリフォルニア州へ
の新幹線受注合戦や物理学界での「暗黒物質発見」競争だが、この勝負がどうな
るか見ものである。
　話がそれた。つまり、自己責任主義とは東浩紀の言う「動物化したポストモダ
ン」ならぬ動物化した日本人の位相ではないかと考える。もちろん、動物化した
のは日本人に限らない。イスラムを安易に敵視するアメリカも、人種差別肯定の
風潮を見せつつあるヨーロッパも同様。ただ、日本の場合は隣にライバル国があ
るので、動物化が目立って見える。
　死刑制度は欧米では衰退しつつあるが、日本には現在もしっかり残っており、
自己責任主義を背景に国民の圧倒的支持を得ている。しかしこの傾向は紛れもな
く動物化を象徴するものだ。平和な生活を維持したい気持ちは分かるが、死刑と
言うトカゲの尻尾切り方式の問題解決のやり方に、日常の些細なことの不満の爆
発で銃を乱射した昨今のアメリカの事件に近い幼さを感じる。