剥き出しの生（掲示板の殺人予告＆ストリートビュー問題）

　数日前の日記で、ネット掲示板に殺人予告を書いただけで刑事罰を受けること
に違和感を表明した。しかし日本には業務威嚇妨害罪と言う立派な刑法があり、
常識的に罰せられるのは当然だ、と言う意見を頂いた。その場ではまだ疑問視と
言うレベルでしかなかったので反論はしなかったが、今一度この問題について掘
り下げてみる。と同時に、ストリートビューに対するプライバシー意識について
もあわせて問いかけを行なう。
　先ず思ったのが、そうした殺人予告書き込みより酷い（つまり実際に殺人を犯
している）人間が捕まらずにのうのうとしていることへの不公平感を感じている
と言うこと。つまり、イラク戦争で多数の犠牲者を出したブッシュ前米大統領の
ことだ。あるいはパレスチナの空爆で多数の一般市民の犠牲者を出したイスラエ
ル政府首脳たち。こうしたとてつもない暴力をもった人間たちが大手を振って歩
いている一方で、たかが掲示板でうっぷんを晴らしたことでお縄になってしまう
不公平感。私たちはいつの時代も、こうした強い権力を持つ者に虐げられて来た
歴史を持っている。あるいは、地上げ屋、ヤミ金のような民間暴力も世の中には
存在する。組織的に暴力を振る舞う人間がなかなか捕まらずに、つい軽はずみで
の暴力がいとも簡単に捕まる、と言うのもなんとも納得がいかない。
　ストリートビューに感じるのも同様の不公平感だ。「実地に行けば誰でも観れ
るもの」と言うが、実地に行けば自分の姿も相手から見られる訳だが、ネットで
は自分が覗いていることを知られずに相手を覗くことが出来ると言う優位性があ
る。だからストーカーなどにも悪用されるのではないか、と言う危惧を抱く。そ
して、プライバシーと言うのはそう言うものだ、個人情報とは身近な近しい人に
は教えるし、知らない人には教えない。相手を見極めて情報提供する訳だ。相手
を見極めず「誰でも」見れる状態はまともに考えれば不公平でプライバシー侵害
になる、と結論づけることになる。
　掲示板に殺人予告を書き込んだ人間は「殺してやる」と言う剥き出しの憎しみ
をあからさまにする。それを読む私たち一般市民もまた、そのような剥き出しの
憎悪に恐怖し、それに対して暴力的に反応する。つまり警察に犯人逮捕を乞う。
もちろんそれは自然な感情なので、剥き出しの憎しみを露わにする者にはそれ相
応の罰を与えるべき、と言う考え方が存在する。
　しかしそれもまた、ブッシュ的だ。暴力に対して暴力で応酬する、と言う方法
が無限ループで終わりのない物であることを知るが故に、ガンジーやキング牧師
は非暴力を訴えた訳だ。それが９１１で始まった２１世紀においては彼らの精神
は全く忘れ去られた感がある。剥き出しの憎しみを露わにし、剥き出しの暴力を
振るうことは行為する側にとっても非常に緊張を強いられるものだ。通常の心理
では理性が押さえつける類いの行為であり、極度の恐怖感の中か、あるいは泥酔
などで理性が正常に働かない状態でそうした行為は行なわれる。そうである以
上、私たちは人間本来の理性をある程度は信じてやらなければならない、なぜな
ら人間と言う生き物は周囲から認められることで人間らしさを獲得する生き物だ
からだ。私自身、IT業界の人間なのでコンピュータセキュリティにおいては徹底
的に性悪説を叩き込まれているが、それでも世界の安定と言う問題においては、
性善説を交えたバランス感覚は欠かせないと考える。要は槍を捨て、盾だけで相
手に立ち向かう覚悟。つまりは反戦思想に帰着させることが長い目で見た場合の
最大の解決策なのではないかと思う。

　最近世間を賑わせているスマイリーキクチ氏ブログ中傷者逮捕についても言及
しておく。当然のことなのがら逮捕には賛成、理由は事件が民事的に扱われてい
るから。その意味で「これは言論の自由をはき違えた言葉の暴力だ」と言う言説
は正しい。これが、国家が勝手に決めた刑事事件的扱いだと異議をはさみます
よ、と言うのが私の意見。