内田先生の語り口の説得力の源泉は、武道家であり宗教家である、というとこ ろにある。学者の肩書きだけで卓見を述べられても、一般人の自分には消化不良 を起こすような話であっても、相手の力を利用する武道の心得（と素人の私は一 言で片付けてしまうが、もちろんその内容は奥深い）と、万人に分かりやすく説 を説く宗教家としての視線の低さが読みやすい文章となって現れ、かつ私たちが 本来持っている良心（のようなもの）を目覚めさせてくれる本。別に２ちゃんね らーやヘヴィなブロガーの中にも、たまに興味深い切り口で社会や政治を切る人 はいる、だが内田先生のそれは、更に万人に伝わりやすい語彙を選び（それは国 語審議会の常用漢字決めのような日本語の豊かさを削り取るようなそれとは全く 別物）、かつ気さくな文体で目上視線を感じさせない。短い章の集まりなので、 どこから読んでも問題ない。一気に通読しなくても、拾い読みでも十分読後感が 味わえます。