普通の人たちが一番怖い

　と言うわけで、正論をゴリ押しする風潮もまた、聖火リレーとともに世界中に
広まっていることが明らかになった。「チベット人に自由を！」と言うメッセー
ジが中国に届くどころか、中国から見たら世界中から孤立させられて弱いものい
じめをされてるような気分になって偏狭なナショナリズムの炎を燃え上がらせて
しまっている。平和のメッセージはこじれて今や世界中を互いの憎悪の嵐の目に
なってしまった。
　そして、僕個人はこうした正論ゴリ押し主義の風潮とともに、まじめに働く普
通の人々、つまり一緒に仕事をしている“出来る”人に恐怖を抱くようになって
しまった。自分みたいなちゃらんぽらんサラリーマンはある程度は怒られ慣れて
はいるが、時々いつかこの人に殺されるんじゃないか，という恐怖感を覚えるこ
とがある。いや、正面切ってお目玉を食らうわけじゃなく、そう言うまじめな人
と一緒に仕事をしている、ということは、そう言う人に四六時中監視されている
ような気分になるわけで、一瞬の恐怖よりこうした持続的な恐怖の方がよほどし
んどい。
　実際に殺されるわけはないだろうが、これがトラウマというものである。こう
した妄想に取り憑かれているうちに、心の病でダウンするのも時間の問題かもし
れない。それは会社のせいでもない、その人１人のせいでもない、社会を覆うど
んよりとした暗い雲のような恐怖政治の前触れのような世論にこそある。職を変
えても、海外に逃亡しても、この恐怖から逃れることはできないのかと思うと、
ゾッとする。