[書評] もてない男／小谷野敦

　残念ながら今の自分には不十分な内容のように思えた。まぁ文庫本サイズでそ
れ以上のことを期待するのも無茶というものだが。
　本著は大まかに言って、恋愛至上主義という文化を作り出した、あるいはそれ
を否定した様々な文化作品（小説、映画、詩、エッセイ、etc）にスポットを当
て、恋愛至上主義が単なるひとつの価値観に過ぎないのであって、アンチ恋愛主
義を堂々と主張すればいいのだ、と言った内容である。それはそれでもちろん納
得できる。
　だが個人的にはもう一歩踏み込んで欲しかったのは、恋愛の上手下手から風呂
敷を広げて、いわゆる人生の勝ち組、負け組の話に広げて欲しかったことであ
る。つまり、恋愛至上主義を否定してみせたところで、異性（に限らず同性と
も）とのコミュニケーション能力が劣っていることは、今日の社会においての成
功失敗に少なからぬ影響を与えているであろうことは間違いない。逆に言えば、
恋愛至上主義を否定するなら、あわせてコミュニケーション至上主義も否定して
くれないと片手落ちではないかと思うのである。神社の守り木のように、１つの
場所に黙って何十年も立っている、それだけで人は生きている価値がある、と
言ったことを肯定してもらわないと、恋愛能力→コミュニケーション能力に変わ
る希望が見いだせないことになる。筆者はもてなくても東大卒という実績を作れ
ても、大まかに言ってもてない人間は出世能力などにもマイナス面が多いのであ
るから。
　現代日本で起こる凶悪犯罪の大半はこのコミュニケーション能力が欠落した人
物によって引き起こされていると言っても過言ではないだろう。中東やチベット
のように強い政治的信念に基づいた事件など皆無に等しい。その意味で、もてな
い男子、と言う枠にとらわれず、コミュニケーション能力が不十分な老若男女全
てに捧げるバイブル本が出てくれることを希求する。