手塚治虫「アドルフに告ぐ」

去年も年初のレビューはコミックだったような。

　タイトルから分かる通り、ナチス批判がテーマの作品。戦後直後の作品か、と
思いきや、1983年発表とかなり新しい作品。
　個人的に気になるのは、ナチス批判がドイツという国の他人事のような印象を
受ける、それが日本が舞台なだけになおさらそう感じる（日独伊三国同盟の同盟
国とは言え、日本の小学校ではドイツ人もユダヤ人も異端者だ）。まぁそれは当
時の視点としては仕方なかったのだろう、だが今日においてはこれは「私たち日
本人」の問題として考えなければいけないことだ。
　今の日本が構造的不況であることもそうだし（企業が儲かっても失業者数、フ
リーター人口は相変わらずだ）、たとえ北朝鮮に非があるにしても、体制翼賛を
指向するような世論には薄気味悪さを感じる。
　問題意識はさておき、文化の政治へのコミットは大事なことだ。政治と文化は
分けて考えるべきだ、と言う人に対しては、あらゆる類いのステートメントは先
ず漫画家のような文化人が自由に発言していくことで文化も民衆政治もスパイラ
ルに成熟していくのだ、と言いたい。