昔話

　マイミクさんに昔話をしばしば日記に書かれる人がいる。というか、自分
くらいの歳になったら、みんな昔語りをする方が普通なのかもしれない。で
も、自分は昔語りは苦手だ。自分にとって本当に大事な経験というのは、良
く消化された経験なので、言葉にできないか、あるいはかなり形を変えてし
か語ることができないと思っている。飲み会とか同窓会とかがSNS以前から
の主要な昔語りの場だと思うが、どちらも基本的には輪に入って行けない。
輪には入れないが、とりあえず自分がまだ存在していることを認めてもらえ
れば、くらいの気持ちで参加している。少なくとも、自分が昔語りを始めた
ら、誰もついてこれない突拍子もない話になるし、未来語りもまた、ビッグ
マウスな話にしかならない。今起きたこと、直接の過去の話を淡々と書き連
ね、アーカイブしていくことしか、私は日記に書けない(というか、それこそ
が日記の王道だが)。
　ただ、今回だけ、ちょっと昔語りをしてみる。そういうことをすれば、た
ちまち愚痴めいた恨みつらみのネガティブな話にしかならない、ということ
を証明するために。
　僕は、音楽経験について、はっきりとしたルーツは持っていない。特定の
アーティストの音楽が骨見に染みている訳でもなく、だからこそ、新しい音
楽(というか、時代的新しさもそろそろ限界、その一方で、未知の文化の音
楽を掘り下げれば、泉はまだいくらでも湧き出てくる)への好奇心が湧き出
ると思っている。自分の世代はロックだったり昭和歌謡だったりする訳だが、
個人的にはそうした蓄積はあっても、クラブミュージックや非西欧的ポップ
スでかなり上書きされている。
　私は日記は、基本的に過去を忘れるために書いているのだと思っている。
過去の出来事を外部メモリに転送してしまえば、脳みそに空きができて、ま
た新しい情報を入れる余地ができると思っている(とは言え、やはり昔ほど
外国語学習で新しいボキャブラリーを増やすのは容易ではない汗)。ボキャ
ブラリーは増えなくても、新しい音楽を吸収する余地は確かにできている。
　私は基本的に一生「根無し草」で良いと思っている。何か１つのことを成
し遂げることが世間的にはよしとされるが、私はそんなことはどうでもいい。
限られた人生の中で１つでも多く面白いものを見聞きしたいだけ。つまり、
傍観者で何が悪い？という考え方。というか、私個人の価値観からすれば、
何か一つに固執する、というのは全然「自由」じゃない。それこそ、数年ご
とに医者も弁護士もすボーつ選手もやれたらよかったが、社会はそんなこと
は認めてくれない。経験者なり勉強をしてなければその職業にはつけない、
ということに、実は納得していない。根っこを張ったら、もうそこから動け
ないなんて、そんなのいやだ。
　私は結婚しなかったが、ぶっちゃけ就職もしたくなかった。結婚は出会い
によるところもあるが、総じて自由が大事だと言う価値観。私は貧乏ではな
かったので出世を求める働き方をしなかったが、貧しかったら、一生懸命働
いて出世していただろうか？仮定の話でしかないのだが、それでも働き者に
はならなかった気がする。私が職業的夢を持つとしたら、乞食だ。今は乞食
は法律で禁止されているが、子どもの頃にはまだ町の中にいた。
　ウクライナみたいに祖国が争いに巻き込まれたとしても、多分武器を取っ
て戦うなんてこともしないだろうし(ひたすら逃げることだけ考えたはず)、
とにかく自由が大事で、境遇がどうあろうと、運命を乗り越える、なんて考
え方はしようと思わない。だから、ウクライナの人にもパレスチナの人にも、
私は逃げてくれ、と言う呼びかけしかできない。共産主義やシオニズム、全
体主義なんか相手にしないで、逃げて欲しい、としか言いようがない。
　と言うことで、私が過去の話をすると、ろくな話にならないのだった。