ときわ台駅前交番

　故・宮本警部が命の尊さを訴えるメッセージを残して殉職してからずっと訪問
してみたかったときわ台駅交番。なんでまた週末に行かずに水曜夜などと言うタ
イミングで家とは正反対の方角にあるこの交番に行こうと思ったのだろうか。ノ
ロで倒れていて何もいいことがなかったあの時期、あの事件の悲しくも人々の心
の奥に突き刺さるニュースはずっと心のどこかにあった。東武東上線は家路へ急
ぐ人たちでいっぱい、何も変わらぬ日常。駅を大勢の人たちと一緒に降りる中で、
僕１人がなんとも言えぬ緊張を感じている。
　いざとなると照れ臭くなるもので、交番の前を迷子の犬みたいに行ったり来た
りして、記帳させてもらうつもりだったのに結局外から眺めているだけだった。
交番の中には、警部の遺影と、沢山の千羽鶴で溢れかえっていた。それらがなけ
れば本当に何の変哲もない交番、そんな地味な存在の交番が、今日もこの街の安
全を守っている。いつもは空気のような存在なのに、本当はなくてはならないも
のって結構ある。この交番は、そんなことも教えてくれる。ときわ台は、駅では
沢山の人が降りたけど、その雑踏が過ぎればまた静けさを取り戻す。観光化した
下町の賑やかさとも、ベッドタウンのせわしない人の波ともちょっとだけ違う街
空間がそこにはあった。まだ季節は寒いが幸い一昨日のような雨にも見舞われ
ず、身近にある大切なものを思い出させてくれる宮本警部の遺影にそっと手を合
わせた。そして何事もなかったように電車に乗り，いつもの家路へと着く。