拉致問題再考

　どうも拉致問題の方向性が不透明だ。６カ国協議でいちおう
の合意をみておきながら、日本だけは拉致問題があるために核
施設停止に応じた場合の資源提供はやらないと言って足並みが
揃わない。もちろん、日本が拉致問題の解決を前提として、と
言ういい分は正しいので、むしろ韓国が同様の問題を抱えなが
ら６カ国協議で持ち出してこなかったことから考えてみたい。
　単刀直入に言ってしまえば、歴史認識の違いだろう。日本は
明らかに、拉致問題を“目の前の問題”として認識している。
一方韓国は南北に分裂した朝鮮半島の“歴史問題”と認識して
いるのではないだろうか。つまり、拉致された人たちが帰って
くることが問題の解決ではなく、祖国統一こそが目的、と言う
こと。
　拉致問題を考えるとき、在日朝鮮人の問題はどうなるのだろ
うか？もちろん彼らは日本がいた方がいい、と言う損得勘定が
働いたり、そもそも戸籍上日本に帰化してしまったので手続き
上の困難があるなどの理由で日本に住んでいるのかもしれない
が、そうした障壁をもってしても帰りたいと考えている人も大
勢いるだろうし、日本の方がましだと思っている人でも死ぬま
でに一度は祖国の土を踏みたい、と考えるのが自然だと思う。
日本政府としても本当は彼らを祖国に帰したい（と言うか、強
制送還したい）と思っているはずだが、様々な事情でそれは出
来ていない。もし在日朝鮮人を帰国させたら、拉致問題は解決
に向かうのだろうか？こう言う議論は全く聞いたことがないの
で、私も判断し兼ねるのだが（そもそも朝鮮半島は１つだった
のだから、現在の分裂状態でこの人は南、この人は北、と言う
送還方法が取れない、と言うのもあるらしい）。
　そもそも北朝鮮と言う国はあまりにも孤立した国である。冷
戦時代のソ連の後ろ盾も失い（今でも中ソ両国と親密だが、だ
からと言って猫可愛がりされるほど強い味方でもなさそうだ）、
アメリカの脅威のみのために彼らは核保有まで突っ走ってきた。
金正日がいくら暴君のそしりを受けても、北朝鮮国民には何の
罪もなく、実にかわいそうな境遇にいる。この周辺諸国からの
脅威の解除こそが本当の解決への道ではないだろうか。つまら
ん北との駆け引きをするくらいなら、ドーンと食糧供給でもす
れば、意外と簡単に北政府は折れてくるのではないだろうか。
甘い考え、と言われればそれまでだが、どうも拉致問題の議論
にはタブーが多すぎるような気がする。ひたすら強行策ばかり
が先行し、融和策による提案は全くと言ってない。核保有議論
なんぞよりよっぽどこちらの問題を多角的に検討すべきである。