私の最初に通っていた若い頃の勤務先では、「旦那がシベリア抑留され、その まま帰って来なかったのでソ連が心底憎い」とおっしゃるご婦人がいた。ロシア 好きの自分にはちょっと残念な話だが、壮絶な個人体験から来ている憎しみに は、返す言葉がなかった。 ところが最近のヘイトスピーチは個人的体験とは関係のない、ネットで仕入れ た情報を差別や憎悪の根拠としている人たちがあまりに多い。憎しみをそんな安 易な根拠にすると言うのはいったいどういうことなのか？身内を殺されたりする ような壮絶な体験なしに軽々しく人を憎むことが許されるのか？ 死刑制度の話も同じだ。自分が身内を殺されたのなら、犯人を殺したいと言う 感情は第三者の私には否定できないが、外野の人間が一緒になって死刑は必要と 叫んでいるのは、憎しみが軽々しく扱われる今の時代でしかあり得ないことのよ うに思える。