終戦記念日前日

　夏らしい青い空が広がる朝。駅に着くと、お盆休みシーズンだというのに人で
ごった返している。朝のテレビで停電が起こったらしい、というニュースがあっ
たが、なんとＪＲも地下鉄も全滅と言うすごいことになっていた。呆気にとられ
ながら、動きそうにない地下鉄の車両に乗り込む。お盆シーズンだったのは幸い
だった、皆諦めモードであわてたり興奮したりする人もなく、電車の動きを待つ。
振替乗車券に並ぶ人の列は長く、通路を塞いでいたものの、そこを通り抜けるの
はネクタイ姿のサラリーマンではなく帰省した子供がおばあちゃんと出かける風
景だった。
　電車が動き出した。電車は込み合うこともなく、呑気にも青空には入道雲が目
一杯背を伸ばして立ち上ろうとしていた。
　終戦記念日を目の前にして、これはひょっとするとテロかもしれない、などと
思う。ただし、これは無血でクリーンなテロ、迷惑はかかるにしても、人の命を
粗末にせずに革命が起こせるのならこんな素晴らしいことはない。靖国に祀られ
た英霊とは、Ａ級戦犯を除いたら戦争の犠牲者だ、それがたとえ「お国のために
戦った」人たちであっても戦争がなければ死なずに済んだ人たちの魂だ。
　夕方退社後、靖国に脚を向けてみた。ひっそりとしているが、明日に備えて警
官や装甲車の姿が見受けられる。だが売店周辺にはそんなことおかまいなしにホ
ームレスが息を潜めて生活している。歴史の重みを感じる人、歴史なんかより今
日の生活の方が大事な人。
　これは平和の姿なのだろうか、６１年前の記憶にただ焦りを感じているだけな
のか。一つだけ言えることは、ここに来て何ら想いを馳せずに通り過ぎる人なん
ているのだろうか。右寄りの人にせよ、左寄りの人にせよ、歴史の区切り目の重
みが国民一人一人に降りてくる、それを無視するような人生は多分中身か空洞な
人生だと思う。