何はともあれ、この写真集の発表はセンセーショナルだった。発売日前日の 発表、しかも水着さえ滅多に見せないカンノチャンが、いきなりのヘアヌード と来た。これだけ話題が用意されていれば売れないはずがなく、飛びつこうと した私は平日会社を抜け出して本屋に開店30分前から並んだりするダメっぷ りを発揮した(苦笑)。
他の人も欲しがるから自分も欲しい、という集団心理があったのかどうか自 分ではなんとも分からない。そんなことより、なぜカンノチャンが?と言うア イドラーとして受けたショックに写真集買いに奔走したように思う。ここまで 発表が遅れたのも、本人の意向を大切にして、と言うことらしいから、写真集 発表自体がデリケートな出来事であったことが分かる。
買っては見たけれど、まだ怖くて封を開けていない。宮沢りえという前例は あるにしても、トップアイドルがヌードになることには多少の畏れ多さを感じ てしまう。僕はまだ管野ちゃんイチオシではないからいいが、イチオシのピュ アなファンは一体この写真集をどう思っているのだろうか。僕がその立場だっ たら、何日間かは呆然として仕事とか手につかないんじゃないか、そんな気が する。
最近はお宝ブームと称して、売れなかった時代のトップアイドルの水着写真 が読み捨てにされがちな週刊誌に載っていたものが高値で取引されたりしてい る。僕はとりあえずあまり関心はないのだが、5月の可愛かずみの自殺といい、 今回の突然の管野美穂のヘアヌード写真集といい、何かアイドル本人が回りの 期待とは全く反するような考え方をし、行動に移したこと、そういうことが自 分にとってはものすごく興味がある、と言うか、すごくリアルなことに思える。 つまり、僕にとっては小学生の頃から相も変わらず、アイドルというのはメン タルなものであって、セクシズムやマテリアルな魅力とは反対側に位置するも のなのだ、と言うことを確認したような気がする。
とまあ、個人的な偶像崇拝趣味を長々と述べたところで、菅野美穂と言う タレントのすごさは伝わらないと思うので、もう少し客観的視点で突っ込ま せてもらうと、彼女は彼女のファンをきちんと「個人」として付き合ってい るのだ、と言うことをこの事件が証明したからである。もし彼女がファンを マス=大衆として捕らえていたとするなら、スキャンダル怖さにこんな写真 集は発表できないはず。そういう社会システムの不当な解釈を超越して、ファ ンを個人として見つめて始めて今回の大胆な自己表現が可能になったのだと 思う。ファンを大衆としてしか捕らえていないタレントやアーティストの活 動にはやはりリアリティが欠けるのが必然だろう。メディアによってフィル タリングされることを初めから計算に入れているのなら、そこには自己表現 なぞ存在し得ないからだ。そういうフィルタリングを全く無視したところに、 彼女の表現者としての圧倒的な説得力を感じずにはいられないのだ。
そのことは同性のファンを増やすことにもつながるだろうと思う。実際、 僕が写真集を買う列の後ろに女性ファンがいた。これまでにも「自分らしさ」 を売り物にして同性のファンを集めたタレントは沢山いる、松田聖子とか江 角マキコとか。だがそれはそれで自由とわがままをはきちがえているような 面も見え隠れするので、今度は異性のファンが伸びないでいるようだ。だが 菅野美穂のそれは聖子や江角の快楽主義的なものとは正反対の、きわめてス トイックな、それこそ十字架にかけられるがごとき強い覚悟で臨んだ自己主 張であり、嫌味がなく清々しくさえある。これは少なくとも僕から見れば、 メチャメチャカッコイイことだし、おそらく彼女の同性ファンも同様の考え 方をするのではないだろうか。
<97.08.24>