セグメンテーションからの逃走

　今の時代、音楽を聴くと言う行為には殆ど必ずその人の「態度・姿勢」が
表れるものだと思っている。音楽なんて「趣味・志向」のレベルでしかない、
と言う認識では済まされない時代になっていると思うのだ。ただでさえＣＤ
と言う“商品”が日本経済を語る上でもはや片隅に追いやってしまうことは
出来なくなっているのに加えて、インターネット上でファン同士が簡単にコ
ミュニケーションをとれるようになった。つまり、音楽とは、今の時代に生
きる人々（特に若者）をセグメントするという機能を持っているのだ。もち
ろんそこには当然個人差があって、ヒットチャートの上位をまんべんなく聴
く人たち（＝浅く広く派）もいれば、特定のアーティストに対して深く理解
を深めようとする人たち（＝狭く深く派）もいる。だが音楽業界のマーケティ
ング担当者にしてみれば、どちらも強弱はあれセグメンテーションの対象に
なってしまう。
　経済学的な解釈はおいておくこととして、ではセグメントされてしまうリ
スナー側の立場として、消費社会に生きる上で必然的に引き出されてしまう
消極的な「態度・姿勢」ではなく、もっと本質的な「態度・姿勢」と音楽を
結びつけるとしたら、どういう物が理想的なのだろうか。その一つの選択肢
は「現場主義」であろう。つまり、ＴＶやＣＤと言うメディアの中での音楽
体験でなく、生ライブを重視する、と言う姿勢である。
　だが今日的なライブには逃れ難い呪縛がある。それはライブハウスの会場
はすでにある程度セグメントされた人種が集まる、と言うこと。アーティス
トにはそれぞれ色（＝個性）がある。これが７色＝徒にカラフルであっては、
音楽に込められた態度・姿勢が曖昧としたものになってしまう。このことは
クラブについても大差があるわけではない。
（これに対抗する手段として、不特定多数の観衆を相手とするストリートパ
フォーマンスがあるが、残念ながらアコギ一本で演奏できるフォーク系がほ
とんどである）
　ＤＪに優位性があるとするならば、彼らに態度・姿勢があるとしても、そ
れを音楽の上に“メッセージ”として載せる必要はない、と言うことだろう
か。メッセージがない、と言う意味では、セグメントされていない人たちも
入ってくることがた易い。そのことが例えば“ナンパする／される人たち”
をも引き付けてしまう弊害、と言うのは確かにあるのだが、それでもやはり
一般のサラリーマンとアーティスティックな自由業（物書き、美容師、デザ
イナー、etc）の人たちが視線を同じく出来る場、と言うのはなかなか貴重
だろう。
　これはどういう事かと言うと、集まったクラブの客たち＝クラウドが“メッ
セージ”になっている、と言うことだと考える。音楽が持つエネルギー源を
アーティストだけが背負うのではなく、フロアで踊る人たちにも任せてしま
おう、と言う寸法だ。
　私が言っているのは、パラパラダンスのような振付の真似だけで一体感を
持ってしまうようなことを言っているのではない。別にそうした一体感がフ
ロア全体を覆う必要などない、メッセージはクラウドの一人一人が勝手に他
のクラバーたちとコミュニケーションを取ればいいのだ。クラブミュージッ
クの強靭さは、こうしてメディアではなくフロアで踊る人たち同士のパーソ
ナルコミュニケーションで直接伝播するからゆえのものであると考える。こ
こは、電話のような１対１のコミュニケーションの場でも、テレビやラジオ
のような１対他のそれでもない、ウェブのような多対多の“生の”コミュニ
ケーションの場なのである。