初詣

　今年の初詣は成田山新勝寺に行った。三が日をはずしたにもかかわらず、
すごい人込みである。こんな人込みが元旦早朝から続いているのなら、数十
万ならぬ数百万の参拝者があったのではないだろうか。
　初詣と言っても信仰心の薄い私は、祈願する内容よりも、寺社殿の素晴ら
しい宗教芸術に目を奪われていた。高い天井、そこから吊り下がっている金
輪。あるいは壁に描かれているいろ鮮やかなタンカ。そうした非現実的とも
言える装飾美に心を奪われていた。
　しかし、そんな興味で寺社殿の上階を見てまわっていたが、突如、無数の
仏像が並ぶ部屋があった。像の一つ一つには名前が書いてある、それが生き
ている人なのか、すでに亡くなった人なのかは分からない。僕はそうした無
数の仏像に囲まれた部屋で、なんとも薄気味悪い気分に襲われ、そそくさと
その部屋を出た。結構な距離を歩いたことも手伝って、ひどく疲れていた。
なぜ気分が悪くなったか？何かとても強い怨念みたいなものを感じ取ったか
らである。別に私に霊能があるとかそういうことでは全然なく、仏像に込め
られた一人一人の祈願のパワーがなんとも薄気味悪く思えたのである（しか
し、仏像を納めた人にはずいぶん失礼な発言だ（苦笑））。
　神様でも仏様でもいいけど、こんなに沢山の人の願いを聞く、と言うこと
はなんてすごいことだろう、と思う。僕だったら嫌になって逃げ出すだろう。
いや、こんなアホな話はどうでもいい、こうしてみると、人間ってなんて他
力本願なんだろう、と言うことだ。もちろん、誰でも最後は自分の努力がす
べてだ、と言うことは知っている。それでもなお神仏に頼ってしまう欲の深
さはやはり人間の愚かさそのもののような気がする。人間以外の動物が、自
分の望みをかなえるために神仏に祈ったりするだろうか？
　宗教を否定する、ってことは、それこそ人類の文明そのものを否定しかね
ないヤバイ議論である。しかし、あえてそのヤバイ議論をするならば、神や
仏というのは、人類が自力では思うようにならない運命と言うものを変えた
いがために作り出した妄想だ、と言う風に無神論者の私は思ってしまう。
　僕個人は去年、散々な年だった（と言っても、命に関わるようなことは何
もなかったのだから、そういう視点からは平穏無事だったとも言えるけど）。
でも、そんな一年を振り返って、「今年はもっとよい年になりますように」
と素直に祈ったりは出来なかった、ひねくれた考えだけど。どう考えても、
今年をよい年にするのは僕自身が如何に努力をするかであって、神仏に祈っ
たところで何も変わりはしない、と言うあきらめに近い思いを持っている。
そんな不埒な考えの私の今年の一年はどんな年なんだろう。