美容整形手術

　昨日のＮＨＫの深夜番組で写真家が最近増えている美容整形手術をする／
した女性を取材する企画をやっていた。その写真家は一貫して美容整形に
反対の人で、その理由は「あまりに志が低いから」と言っていた。そんな
人が顔にこだわる女性と対談するのだから、話が噛み合うわけがない。ど
うせなら感情むき出しにしてやりあってもらいたかったが（ってそんなこ
とＮＨＫがやるわきゃないか）、結果的にはお互いの主張を曲げないまま
平行線に終わると言うひどく退屈な番組だった。

　番組批評はともかく、この写真家の言うことはよく分かる、特に写真家
と言う表層から深層を映し出そうとする人の口から「人間は表面よりも内
面を磨いて勝負するものだ」と言う言葉が出るのだから説得力はある。実
際、彼女たちの手術後の顔は全然きれいだとは思わなかった、ＴＶだから
元が良かったのに、と言う言い方をしていたが、本音は元も悪いし手術後
も悪いのだ。そしておそらく、彼女たちはそれに気づかないわけではなく、
一生懸命気がつかない振りをしていたようにも思う。そんな風に彼の言い
分は正しいにもかかわらず、やはりこの写真家をただの頭の固い頑固オヤ
ジだと思わずにいられない印象が強く残った。

　インタビューに答えた女性たちは、顔にこだわると言う志の低さを意識
的ではないにせよ、ちゃんと自覚していたような気がする。自分は強い人
間ではないのだから、表面をより一層きれいにすることで、内面的な自信
がつけばそれはそれでＯＫなのだ、と言う考え方をする。つまり、表面的
なことより内面が大事、と言うきれいごとが通用しないことを知っている。
顔が少し変わったくらいで彼女たちが美人になったわけではないし、少し
は積極的になったのだろうが、程度の低さは相変わらずだ。ただ、自分は
程度の高い人間だ、などと思い上がっている人間に比べたらずっと好感が
持てる。顔にこだわる人間も程度が低いけど、人生で体験してきた苦労を
切々と語るような人種も五十歩百歩だと思う。いや、それどころか自分の
矮小さに無自覚な人間の方がたちが悪い。自分は世の中の役に立つことを
やっているつもりでいても、実際には環境破壊だったり腐敗政治だったり
するのだから。現実にあっていない理想を語ってそれが真実だと信じ込ん
でいる、いわゆる「平気で嘘をつく人々」がこういう連中なのだ、と思う。

　彼女たちこそ現代人と言う種の本質なのではないか。２０世紀と言う時
代は気狂いじみたスピードで物質面で進歩を遂げた特筆すべき時代だった。
しかしそれに対して人間自身は進歩したのだろうか。してるわけがない、
むしろ退化したとさえ思える。豊かになったからこそ、小さなことでくよ
くよ悩むことが出来るようになったわけだし、顔の美しさにこだわるなん
て志の低さも可能になったと思っている（生きるのが精一杯な時代に美醜
にこだわっている暇なんてあるわけないよね？）。宇宙に行くことさえ夢
ではない時代だからこそ、そういう時代の変化について行けずに矮小な思
い込みから逃れられない人が沢山いることも知っておく必要がある。そし
て、そういう現代の風潮をすくい取ることの出来なかったあの番組は、ド
キュメンタリーとしての値打ちは一体どこにあったのかと思う。まぁこう
やって僕個人が一生懸命考えたからそれはそれでいいか。

　と言うわけでこの議論で僕は彼女たちの肩を持ったけど、繰り返すが僕
は彼女たちをきれいだとかかわいいとかは思わない、矮小な人間には矮小
な美しさしか醸し出せないから。ただ矮小さを自覚している人間の方が無
自覚な大人たちよりどれだけましか、と言うことを言いたかっただけだ。