老人ボケは究極の幸福

　一般的にボケは病気の一つとして多くの人々を悩ませるものとされているが、
どうも僕にはボケと言うのは生きながらにして天国にいるような至福を得られ
る状態ではないか、と考えている。

　考えてもみてくれ、人間の苦痛には肉体的苦痛と精神的苦痛の２種類がある
が、ボケと言うのは言ってみれば後者の精神的苦痛から完全に解放されたよう
なものである。これを幸福と言わずしてなんだろう（僕は医者ではないのでこ
の病気に対する認識に誤りがあるかもしれないが）。

　我々のような理性がそれなりにある人たちは精神的苦痛から逃れるために酒
の力を借りたりする。あるいは違法な薬物に手を出すかもしれない。だがボケ
は完全に合法なやり方でトリップしているようなものだ。ジャンキーカルチャー
に憧れを抱く筆者としてはボケを怖がるどころかうらやましいくらいである。

　年老いたときの理想とは普通、年齢よりも若い肉体と心を保ち、家族や友人
に囲まれ楽しく過ごす、と言うものだろう。しかし核家族化が進む中で家族と
過ごすことは必ずしも楽しいとは言えなくなってきたし、若い肉体と心を保ち
続けるなんて実際には医学万能主義を信奉する人間の戯言である。いつの時代
でも歳を取ったら死の恐怖に駆られる。ボケは死の恐怖を完全に取り除いてく
れる天からの贈り物である。だから僕にとっての老後の理想は気持ち良くボケ
ることだと思っている。もちろん、ボケることで周囲のみんなに迷惑をかける、
と言うことを心配している優しい気持ちは立派なものだろう、しかしそういう
心配をも忘れて安らかにボケ老人として過ごすのが老後の理想と考えてもいい
時代になったのではなかろうか。そう、ターミナルケアと言うやつである。

　まぁ社会福祉制度はともかく、僕はボケ老人と言うのは理性万能主義に犯さ
れた２０世紀の管理社会に対するアンチテーゼのメッセージを持った病気だと
思っている。僕もアクセク働いてもいいことなんかなさそうだから、薬物やっ
て廃人になって、病院で気楽な余生でも過ごそうかな、なんていうかすかな希
望を持っていたりする。