（５）左翼は生き延びられるか

　２０世紀の２大社会思想は言うまでもなく資本主義と社会主義である。前者は
これでもか、と言うほどの栄華を極めまくり、後者はとんでもない残虐さを剥き
出しにし、歴史に大きな汚点を残して、今や風前の灯火である。
　なぜ社会主義は失敗したのか？いまだにマルクスの資本論は社会科学史上最も
重要かつ有用な書物であるし、その議論に数多くの批判はあれ、決して破綻した
わけではない。
　私の考えでは、それが「科学的」であったからこそのような気がする。当時は
「これは夢見る人間のユートピア思想ではなく、労働者が暮らし易い社会を築く
上での必然的社会制度を提唱したものである」と言う認識だったのかもしれない
が、結局のところ、人間の素朴な感情に根差した宗教的な封建制度からのスムー
ズな移行に失敗したのだろう、と言うのが私の推測。
　自民党は靖国を、公明党は創価学会を背景としている。宗教的バックグラウン
ドは、最終的には「科学的理論」よりも強いようだ。どうやら人間と言うのは思
いのほか“非科学的”な生き物らしい。
　ある意味、右翼は鳥肌実や雨宮処凛などのパロディを通じた軽妙な形で今日も
「再生産」されている。しかし、左翼に関してはこうした浮いた評判を取ること
が皆無に等しい。素朴な感情に根差していない、と言うことはそういうことであ
る。
　ニューアカのように、以前は日本でもファッショナブルな形で左翼が語られて
いたが（朝日ジャーナルの存在は大きかった）、今やそのような土壌も消えてし
まった。ヨーロッパのような階級闘争のある文化では今でも左翼は政治的存在価
値が大いに認められているが、階級闘争のない日本の場合、前述のようなタレン
トが表れるような足取りの軽さが左翼にも必要なのではないだろうか。２１世紀
に左翼が生き延びられるか否かを握る重要なことではないか、と思っている。