（３）管理社会

　奴隷制度も形式的には廃止されたし、人種や性の差別問題も２０世紀には
かなり議論がされたと思う（もちろん問題はまだまだ山積みだ）。しかしま
た、２０世紀には厄介な“われわれの自由を阻むもの”が発達してしまった
時代でもある。システムによる管理社会である。
　このことはすでに今世紀初頭から“メトロポリス”の映画の中のビッグ・
ブラザーの存在のように、ＳＦでは語られていることである。多くの人々は
「映画ほど酷くはなっていない」と考えるかもしれない。しかし、映画のよ
うに目に見える形になっていないからこその「管理社会」なのであって、そ
うしたＳＦ作家たちの想像は当たらずとも遠からずだった、と考えるべきだ
ろう。
　何しろ、今の我々は＜管理される＞ことなしには生きていくことすらでき
ない。銀行の口座番号も、クレジットカードの暗証番号も、国民保険の番号
も、全てはシステムに管理されている。ある意味、そうした“情報”を管理
しているコンピュータは、表層的には悪徳金融業者のような“悪意”を持た
ない存在なので、我々はむしろそれらを神のように崇めて暮らしているので
ある（御守代りに私たちはクレジットカードを肌身離さず持ち歩く、なぜな
ら御守よりクレジットカードのほうがずっと“ご利益”は大きいからだ）。
　私たちはもう少し怯えるべきだ、不安を感じるべきだ、このシステム管理
社会というものは、使い方によってはホロコーストよりも人類を残酷な仕打
に処する潜在能力を持っているのだから。