A Way Of Life (3/5)

3.judgment

　裁判所は居心地がいい。ここなら無礼極まりないシャッターの嵐にお
ぼれることもない。しかし私は今一身に日本中の人たちからの注目を浴
びているのだ。悪い冗談なんかではない、今自分はどんな芸能界のスー
パースターよりも注目される存在なのだ。僕は昨日まで誰からも関心を
持たれない、つまらない小市民だった。でも今は、たとえ明日で終わる
はかない人生だったとしても、万人が私の言葉に耳を傾けてくれるチャ
ンスなのだ、世の中の人全てに向けて発したいメッセージを今こそ発言
するのだ。マスコミの諸君、どうか私のこの命が尽きるまでを世界中に
実況中継してくれないか？
　裁判は原告側の求刑通り死刑になった。被告に刑事責任能力が十分に
あり、かつ情状酌量の余地のない、冷酷非道な犯罪である、と裁判官は
断じた。オレも負けてはいられない、「そういうことを理性的な口調で
淡々としゃべるアンタこそ冷酷非道だ」と。警官たちがオレの腕を掴む、
暴れるんじゃないかと思われたようだが、オレはただ言いたいことを言
いたいだけだ。
　結局のところ、オレは裁判で言いたいことの半分も言えなかった。裁
判官にはむかう発言をすれば直ちに取り押さえられ、かつ発言を制止さ
れる。オレはそんな裁判のやり方には従えない、と何度も訴えた。しか
し彼らはそんな話には全く耳を傾けていない。仕方ない、残りの言いた
いことは遺書に残すしかない。俺にはいわゆる財産はない。今世間の連
中に言いたいこと、それがオレの全ての財産だ。
　オレは弁護士に最後のお願いをした。オレは無味乾燥な死刑台なんか
で死にたくはない、どうか俺を家畜の塗擦場で家畜と同じ要領で殺して
欲しい、と。オレは家畜以下のろくでなしなんだから、そうした方が世
間の皆様も喜ぶだろう、と。弁護士は、死刑は見世物じゃないのだから、
そんなことはできない、と言った。なぜなんだ？死刑と言うのは次の犯
罪抑止のために見せしめとしてやるもんじゃないのか？死刑執行を世間
の目から隠していたら、それは国民の知る権利を奪っていることになら
ないか？