The Way Of Life (1/5)

1.murder case

　金曜日の夜。渋谷の地下街には人が溢れていた。終電に乗ろうと駅へと
急ぐ人々、コギャルをナンパしているＢボーイ、アクセサリーを売る外人、
風俗のビラを配る老人。。。雑踏の熱気は冬の寒さを凌駕する。家出少女
と思しき高校生がナンパ相手に悪態をついたらしく、男が少女を殴り倒し
た。ワッと野次馬が群がる。そこへ場を張るヤクザが割り込み、殴った男
にそれ以上の一撃を浴びせる。ヤクザは更に男を足蹴りにし、男は口から
血を吐いていた。少女は逃げようとするが、ヤクザたちは何も彼女を助け
たいがためにケンカに割り込んだわけではない。仲間が彼女の腕を使って
連れ去る。どうやら彼らの組織の売春婦らしい。
　ギャンブルで身を崩した風の、限りなくホームレスに近い身なりをした
男が歩いてくる。引きずる足元から黄色い液体が流れている。最初それは
彼の汚物かと思ったが、それにしては量が多すぎる。しかし街行く人にそ
んな男のことを気にする者は誰一人いない。よく見ると、ヨボヨボじいさ
んのように歩いているが、そんなに老け込んではいない、むしろガッチリ
した体格のようだ。ただ身なりがみすぼらしいだけのようだ。
　男は３０分かけて約２００ｍある地下道を２往復した。悪臭立ち込める
黄色い液体を人々は避けて通る、だが人通りが途絶えることはない。いつ
の間にか男は姿を消していた。背の高いホスト風の男が火の点いたままの
吸い殻を投げ捨てる。吸い殻は黄色い液体に火をつけた。最初、赤い炎が
パッと広がる、それに驚いて人々は炎を避けたが、まもなく無色無臭の毒
ガスに通行人が次々と倒れ始める。その毒の強さは女性に悲鳴を上げさせ
るチャンスすらも与えはしなかった。走って逃げようとする者もすぐに足
がもつれ、その場に膝をついて倒れ込んでいく。壮絶な風景はむしろ雑踏
の喧燥をかき消し、地下街に静けさをもたらした、露天商から流れるエス
ニックなダンスミュージックを除いて。
　犯人は一週間後に自首してきた。目撃者の数々の証言など全く役に立た
ない、彼らの証言の風貌とは全く異なる人物が自首してきた。自分を犯人
だと名乗る男は、皮ジャンの下は背広、サングラスをはずすと視線のきつ
い、立派な鼻ひげをたくわえた男だった。ただ、体格だけは確かにあの浮
浪者と同じだった。
　自首してきたものの、彼は取調べには全く応じようとしなかった。黙秘
権を行使している、と言うよりも、取調べ官の質問に全く上の空で、取調
べが進まない、と言った方が正しい。新聞では情緒不安定を装った知能犯
と書かれた。が、１週間ほどして彼の考えがまとまったのか、男はゆっく
りと物語を語り始めた。