From sana  Tue Mar 12 19:58:39 1996
Date: Tue, 12 Mar 1996 19:35:15 --900
From: TIS Kazuhiro Sanada 
Subject: [music-fans:00293] Hiromi Iwasaki Concert

	岩崎宏美コンサート "FULL CIRCLE" at 東京厚生年金会館

  たまにはこういう“酔いしれる”コンサートもいいものだ。いや、それどこ
ろか２０年前にアイドルとしてデビューした歌手が今も現役で歌っている、そ
して彼女は曲がりなりにも自分と同じ時代をずっと成長してきた、と言う事実
が感動的なステージ。

  先ず驚いたのが観客の層の厚さ。息子や娘を社会人に送り出したような立派
なオジサマ、オバサマもいれば、その一方で茶髪のニイチャン、ネエチャンも
いる。まさに万人にアピールする歌手だと言っていい、この状況に感動。

  ライトが明るいうちにＰＡから岩崎宏美の声が流れ、やがてライトが落ちて
いく、と言うオープニング。さり気ない演出だが、鳥肌が立つほどの心地良い
瞬間だった。最初の曲はインストの音量が大き過ぎるのが気になったが、それ
も束の間、シンプルなストリングセッションをバックに彼女の声がホールに響
き渡る。大袈裟な言い方を許してもらうなら、岩崎宏美の声は普遍的な美しさ
を持っている、と思う。それはつまり、彼女が実力派だとか、オリジナリティ
に溢れているとか、そういう次元を越えて、“歌”と言うものの素晴らしさ、
日本語の響きの美しさ、みたいなことまで想いを及ばせてくれるからだ。

  ＭＣがまた大人だと思った。これが９年振りのコンサートです（すごいブラ
ンクだ！）、ホールに観客が集まるかどうか心配でした、と言った程度のこと
以外はあまり個人的なことを話さず、語り口も説明的で淡々としている。つま
り、自分が伝えたいことは全て“歌”で伝える、余計な感傷は要らない、と言
う、歌手としてのプライドがひしひし伝わってくるように思えた。

  中盤にデュエット曲が１曲、僕は当然のことながらＳＬＴの佐藤竹善を予想
していたが（アルバム"FULL CIRCLE"の中の"Back Together Again"と言う曲で
彼と共演しているから）、登場したのは何と飛鳥涼だった。１曲のみ、しかも
彼のＭＣが聞けるわけでもない、と言うこの贅沢なゲストの使い方に感心。

  アンコールもすごかった。マイクなしで「月見草」を歌う。まさに「聴かせ
る歌手」の独壇場、と言う感じ。更に、ファンからの花束贈呈の列がステージ
前に出来た。今のポップス歌手では死滅しかかっているこのセレモニーに、逆
にとても新鮮なものを感じた。誰かが、由紀さおりの姉妹がやっている童謡コ
ンサートのツアーの後を継ぐのは岩崎宏美、良美の姉妹だろう、と言っていた
が、僕と全く音楽的嗜好が異なる人々が同じコンサートを楽しんでいるんだ、
ということがこの古典的な風景から感じられた。

  僕は普段は音楽をジェネレーション＝世代の核を為す文化だと捉えているが、
その一方で世代間の風通しを良くする音楽への渇望も潜在的に持っているよう
だ。いや、世代間の意識差がますます広がっている現代においてはとても重要
なことではないか？ネット通信にしたって、そういう方向性は社会を良く変え
ようと考えている人たちには大切な視点だったりしてさ。なにはともあれ、終
演後の余韻をしばし楽しんでから席を立ったコンサート、おそらくこれが今年
No.1のコンサートになるでしょう。

                       phone:03-3271-5051(ext.2856)
                      mailto:sana@McLaren
               http://192.110.1.180:8080/‾sana/index.html
                 (connectable only in inter-office net)