[MOVIE] 壁あつき部屋＠ユーロスペース

　ユーロスペースの死刑映画週間。一番観たいのはフリッツ・ラングの「Ｍ」だ
が、都合が合う作品をとにかく観ておきたい。
　新中野から渋谷へは鉄道だと乗換必須、こんな時こそバス。京王バスが直行便
があるが、やはり信号待ちがありかかる時間が読めない。
　ユーロスペースにはギリギリ到着。予告編なしでいきなり本編。なんと、イン
ディーズ作品ではなく立派な松竹作品。そして、終戦からわずか４年後をとらえ
た今はなき巣鴨プリズンの収容者たちの物語。ちょっと意表を突かれた、死刑関
連とはいえ、物語はB級、C級戦犯の話。今日、A級戦犯の話題はニュースになって
も、B級、C級戦犯が話題になることはない。勉強不足の私にはその存在すらほと
んど知識がない状態で、ストーリーもまともに追えていなかった。彼ら収容者た
ちは、あのラストシーンで解放されたのか、それとも引き続き収容が続いたのか
も理解できなかったし、収容者が一時的に収容所を出て妹と荷車を引く場面、最
初は引越かと思っていたが、後で（トークショーで言及があった）母親の葬式だ
と知った。そんな具合だから、ディテールを聞かれても説明できない。
　しかし、これが娯楽映画作品か？と疑うほど画面は暗く、戦後と高度経済成長
の谷間の時代を垣間見せる貴重な映像作品であることは理解した。
　A級戦犯は言わずと知れた太平洋戦争の指導者たちだが、B級、C級戦犯は現地で
非人道的な行為をなした者全てが対象。当然、赤紙１枚で召集され、行きたくも
ない戦地で生き延びるために殺めたくない人を殺めた人たちもたくさん収容され
た。映画に出て来るプリズンは当時の本物なのだろうか？（牢屋はさすがにセッ
トだと思うけど）
　そんな訳で、この映画で死刑を考えるとすれば、おおむね自分の死刑観と近い
と言える。死刑とは、戦争と切っても切り離せないものなのだ。そして、生き延
びるための殺人行為に対してはおおむね恩赦が適用されたようだ。とはいえ、戦
争中にやむなく人を殺めた行為と、平和な現代社会で人を殺めた行為とで、いわ
ゆる“被害者感情”と言うものに差異があるのだろうか？むしろ“被害者感情”
と言うマジックワードこそ、論点をはぐらかして議論を平行線にさせる元凶にも
なる。
　映画も１時間50分におよぶ長編だが、その後のうじきつよしさんのトークショー
も１時間におよぶものだった。彼の言葉も穏やかな語り口ながら壮絶だ。彼はプ
ロテストソングで有名になった人だから当然反戦派だが、父親は志願兵だと言う
（現在形で書いたのは、今もご健在と言う意味である）。だから、むしろ戦争を
否定されると自分の人生を否定されることになるから、戦争に肯定的なのだと言
う。そんな父親を、インドシナの戦地に連れて行って、戦争を否定して欲しいう
じき氏が頑として否定しない父親と喧嘩になったと言う。大変勇気の要る親子喧
嘩である。
　まあ別にサヨク勢力の集会ではなく、ここはあくまでも大衆娯楽の場である。
死刑週間のサブタイトルが「生きる権利」、戦争を否定することができない父親
も長生きする。何の解決にもならないが、お互いの生きる権利を尊重すること。
出発点としてどちらの立場もさやをおさめることのできる結論はこれではないだ
ろうか。