[MOVIE] 凶悪＠新宿ピカデリー

　範田紗々ちゃんご出演と言うことで観に行く。イヤア、いきなり重厚なドラマ
で見終わったあとぐったり、てな感じの作品(^_^;)
　ホラーは感覚的にキライなんだが、実は殺人犯の映画って若い頃よく観てい
た。生理的に人の死を考えるのではなく、宗教的倫理的側面から人の命を考える
のは結構大事なことだから。例えば、あの死刑囚・須藤（後から酌量されました
が）には彼なりの人情があって、それが極端で世間ずれしてるところなんか、人
の倫理感覚は人それぞれで一筋縄では行かないことが分かる。最後に無期懲役
囚・木村が自分の死刑を望んでいるのは犠牲になった仏様でも須藤でもなく事件
を追い続けた主人公の週刊誌記者・藤井だと指摘するところも深い。そして、私
的に一番衝撃なのは、須藤が「神様は生きて償いなさいと言われた」と発言する
ところ。神様とも人並みの感覚はまたどこかずれている。
　須藤と木村のこれが実際にあった事件とは思えないほど躊躇なく人殺しする姿
はカミュなどの不条理小説の中だけではないことに戦慄するが、それを演じたピ
エール瀧とリリー・フランキーの演技がこれまた異様に説得力があってたまげ
る。瀧なんかよくまあ「あまちゃん」の寿司屋の主人と演じ分けたもんだ（まあ
セリフのほとんどない役を演じられる役者じゃないとあんな強烈な殺人犯は演じ
られない）。
　この、理性にも感性にも手に追えない生死の問題で紗々ちゃんのエロスがどう
いう意味を持つか？刺青男にも嫁がいて、その二人の営みがあり、紗々ちゃんは
そういう（歪んだ）愛情とも縁のない強姦をされる。性欲と殺意は悪意の欲望と
しては同列でも、生死において反対の結果をもたらす行為。悪意もまた、一筋縄
で語ることができない。そんな二律背反な世界観が最もよく表れているのが、正
義の味方であるはずの主人公が離婚寸前まで追い込まれること。そして、彼ら夫
婦は母親を介護老人ホームへ入所させることで決着をつけるが、これもやはり借
金返済のために老父を殺人犯の下に預けた家族と重なる。つまり、このドラマに
はどこにも善人はいない、雑誌記者が「先生」を逮捕するまで追い詰めたメイン
ストーリーも溜飲こそ下げはするが、ここでもまた善悪をクリアにすることがで
きない。
　人を殺してはいけない、と言うかくも単純明解な倫理的命題がいまだに人類は
決着をつけることができていない、と言う事実を暴露するドラマ。それこそス
クープである。
　それにしても池脇千鶴はカワイイのにこういう重厚なドラマで不幸を背負う役
が多い気がする。もっと軽やかなドラマも観てみたい。