[MOVIE] Pierro Le Fou par Jean-Luc Godard 気狂いピエロ／ジャン・リュック・ゴダール監督

　説明不要のゴダール監督、いや、ヌーヴェルヴァーグ映画の最高傑作。いつ
買ったかも覚えていない映画DVD、せっかくの引き蘢りＧＷ中に鑑賞してしまお
う。
　確かこの作品、劇場で１回、テレビ（当然ＮＨＫ教育）で１回観た記憶があ
る。要はヌーヴェルヴァーグとの出会いはヒップホップ＆ハウスミュージックと
の出会いと同じなのだ。ヒップホップ＆ハウスミュージックがカットアップ＆リ
ミックスと言う手法で既成の音楽を解体するずっと前に、映画ではヌーヴェル
ヴァーグと言うカットアップ＆リミックスがすでに実験されていた。
　もちろん、この作品のような“不条理”はアルベール・カミュの小説のよう
に、フランス文化の中核の一部である。そう考えると、時系列に配置されるべき
ストーリーの解体は、ゴダールにとって決して新しいことではなかったのかもし
れない。しかも、時系列の解体のような不条理はあらためて映画編集の中でしか
起こりえないものではなく、現実の中でもいくらでも存在してきた。殺人事件は
決して理由が先立って行なわれるのではなく、理由は後づけされるものだ。
　そう言うストーリーの解体がかくもスタイリッシュで面白いものになるのかは
私も分からないし、映画評論家でもそこまで種明かししてみせた人は聞いたこと
がない。と言うか、そもそもスタイリッシュだ、と言うこと自体、後付けで説明
されたことに過ぎない。やっぱり現実の方が不条理だな。
　脱線した。映像自体はとても軽やかで、まるで高級レストランにサンダルで
入っちゃうような不躾さが痛快だ。しかし映画史を塗り替えるような哲学的基盤
に基づいた映像編集は一朝一夕では生まれ得ない実験を繰り返したことに違いな
い。フォーマットのユニークさだけで映画を語るつもりはないが（実際、アンナ
カリーナのキッチュな魅力、
ジャンポール・ベルモンドのキザなスカシっぷり、登場人物のキャラクターも最
高な作品だ）、９０年代に革命的なことが起こり過ぎて、２１世紀に真新しい衝
撃に出会ってない現実の中で、ゴダールの革命的手法にもう一度驚嘆してみるの
は楽しいことだ。