[MOVIE] 靖国／Li Ying監督

　死にそうなくらいに落込んだり、理不尽な（実際にはそんなでもないが）要求
に怒りを覚えてみたり、そんな情緒不安定な状況が続く。それを気づきもせず
黙々と仕事を続ける周囲の人間の機敏のなさにあきれたりする、でもきっとそう
言う感情を押し殺した人たちがいないと世の中はうまく回らないことになってい
る。
　シネ・アミューズでの上映はＧＷとも重なってスゴイことになっていたが、さ
すがにシネカノン有楽町１丁目ではレイトショーでハードルが上がったので（終
演は23:20！）満席にはなっていないが、それでも要所要所に警備員が配置さ
れ、一部ではあるがワケアリな団体さんの集団もお見かけしたりする。映画とは
単なるファンタジーを垂れ流しだけではない、ちゃんと現実とリンクしているこ
とに意味を感じる。
　前半は映画としてはひどいものだった。ドキュメンタリーなのである程度はや
むを得ないとは言え、手ブレのヒドイ映像で前方の席で鑑賞していた私は気分が
悪くなりそうだった。つまり、前半は８月１５日の靖国参拝者たちにフォーカス
を当てたもの。次々と愛国者たちが強烈な熱狂を持って参拝する様子を伝える。
中盤にようやく合祀取り下げを申し出る台湾人の遺族団体が登場、彼らはその代
表者の整然とした態度に、先ほどの熱狂そのままの愛国者たちとの１８０度の違
いを感じ、説得力を感じた。とは言え、靖国反対派にも滑稽さをさらけ出す人々
もいる。ただ、そのシーンで気になることがひとつ、親靖国派の人が反靖国派に
向かって「お前は中国人か？」と詰め寄る。靖国問題はその存在意義からずらさ
れ、歪んだ対中感情となって溢れ出し、民族主義的な問題にすり替わっているこ
とを明らかにする（ちなみにその男性、カメラを回している監督こそ中国人なの
に、そちらには詰め寄って来ないｗ）。
　それにしても、ラストシーンで流れるHenrk Goreckiの交響曲第３番がとてつ
もなく厳かで美しい。映画そのものは親靖国派も反靖国派も等しく人間としての
悲しくも滑稽な姿をさらし、戦争の悲惨さというものを間接的に伝えることに成
功していると思うのだが、ここでは逆に、原爆投下後の広島の風景や、日本兵が
打ち取った首を誇らしげに手にするような生々しい残虐シーンをまるで美化する
かのように荘厳なメロディをあてがっている。この転倒をどう解釈すればいいの
だろうか、目の下にクマを作りながらも、「政治家一個人として英霊を参拝する
のは自然なことです」と言い、思考停止を恥とも思わない小泉首相のように無垢
でいるわけにはいかなくなる映画。