女学生 主演：西野翔　監督：かわさきひろゆき　原作：団鬼六 シネマアート下北沢

　西野翔ちゃん初主演映画ということで、雨の中シネマアートン下北沢へ。下北
と言えばいまだに方向感覚が麻痺してしまう迷路のような街、早めに出かけたの
で、結構早く到着。TOMOさんの用意してくれた寄せ書きにコメントを入れます。
シネマアートン下北沢、いかにもこの街らしい、昭和の場末の劇場の匂いを今に
残す劇場。と言うか、この街自体がすでに映画であり、ドラマみたいだ。この街
を歩く人たち自体が女優であり、俳優であるみたいだ。
　上演前に舞台挨拶、監督に紹介されて舞台に登場、映画初主演ということで、
若手女優としての初々しさが漂います、さっきまで落ち着かずに通路をウロウロ
してた翔ちゃんですが、挨拶の時は頼もしい女優さんの顔。彼女をサポートする
俳優さん、女優さん方、若山騎一郎さんはガタイもでかく、さすが若山富三郎の
息子、というオーラがあります。他の俳優、女優さんが意外としゃべらず奥手な
のが可笑しい。
　最小限の映画資源で最大限の人間心理描写を引き出した作品、と言う印象。ハ
リウッド映画なら戦争、巨大な自然災害、宇宙人侵略などの方法で極限状態を作
り、そこでの人間模様を描くが、ここでは１人の老人の金に物を言わせた欲望に
よって若い男女を極限状態に追い込んだ。だから先ずは老人とその片棒を担ぐ映
画監督の残虐さはひとまずおいて、追いつめられた二人の心理をじっくり観察す
る楽しみ方がある。
　西田折江を演じる翔ちゃんの初々しい女子大生が素晴らしい。肩の震わせ方な
どで、仕草が、肉体が心理を表現する。恐怖に冷汗をしたたらせる描写などは下
手なセックスシーンより迫力がありました。映画初主演となれば普通なら周囲の
ベテランの役者さんたちのサポートで映画表現がされるが、ここでの翔ちゃん、
早くも独り立ちした女優としての存在感を見せています。と言うか、裸で出演す
る、すなわち肌で演技する、ということはＡＶ女優としての経験があってこその
演技ではないかと。
　一方、彼らを追いつめるのは自然災害や宇宙人ではなく人間なのだから、彼ら
の残虐心理についても詮索してみたいところ。途中で老人がＳＭにハマった生立
ちを語る場面があるが、正直それを聞いてもやっぱり困惑が消えることはなかっ
た。
　そしてその間の立場にいるＳＭ作家の吾郎（若山騎一郎）、さすがは若山富三
郎さんの息子だ、攻める側でも攻められる側でもない、プレイをソファに座って
観ているだけなのにこの存在感はどうだ。この人がいなかったらこの映画は成り
立たない、攻める側の残虐心理と攻められる側の羞恥心を砕かれる屈辱感、両側
から眺める目があって初めてこの映画の全体像が見えてくる。
　なかなか上映館を増やせるような作品ではないだろうが、団鬼六の原作の“業
の深さ”みたいなものが見事に銀幕化されていて、こうして思わず語ってしまい
たくなる作品。