亡国のイージス　阪本順治監督

　笹尾さんにチケットを頂いて、渋谷ピカデリーで観てきました。今年まだ映画
鑑賞は２本目なんだよな。
　んー、どこから切ってみようか、純粋に映画話をすべきなのか、いきなり国家
論をぶちあげるべきか（笑）。どっちにせよ私の場合“自分の思想”と言うフィ
ルター抜きにこういう映画を観ることが出来ない。逆に言えば、ヒダリ側の人間
として、ミギ側の人たちの現場感覚を理解する目的で観に行った、と言うのが正
直なところ。
　上映時間に間に合ったのでほぼ予告編を全て観たが、観たい映画は全然出て来
ないねえ、ディズニー映画も韓流ラブロマンスもお呼びじゃない訳で。まぁここ
の映画館はゴダールとかアルモドバルとかアンゲロプロスとか、もちろんアイド
ル映画なんかかかる映画館じゃないつーことで（笑）。
　先ず、ストーリーを理解するのに苦労した。最初の展開ではどちらが見方でど
ちらが敵なのかよく分からない、そもそも（海上）自衛隊なんて大所帯な訳で、
船に乗っている人の役割を理解するだけで大変、ましてや地上にいる人まで加え
たら訳分からん。更にＤＡＩＳだのＦＴＧだのと言った専門用語を使われても分
からねーっての（だからこそ勉強になる訳だけど。つーかみんな原作の小説やコ
ミックで予習してあるんでしょうね）。まぁここであらすじバラしてもなんだか
ら、日本映画にしては本格的な舞台装置、と言うこと。
　さてここから脱線（笑）、なぜ本格的な舞台装置が用意できたかと言えば、そ
りゃもう１にも２にも実際の自衛隊の協力を得たからである。税金で用意した自
衛隊の設備を民間の映画撮影なんぞに簡単に貸すな、とも言えるし、逆にこうい
う映画を通じて国防の大切さ、すなわち自衛隊存在の意義を喧伝しておく必要が
あると考えれば自衛隊の映画協力は至極当然とも言える。
　映画はもちろんフィクションだ、とは言えディズニーやハリーポッターのよう
なおとぎ話とも違う、人類には無数の戦争という現実の歴史が存在していて、そ
の延長上に自衛隊の設備（この場合は海上自衛隊の主力護衛艦）を外国の工作員
に乗っ取られる、と言う危機は現実化の想定範囲内にある。だが一方で、やはり
これは保守勢力側のプロパガンダと理解する方が正しいと思っている。アメリカ
が9.11後にイラクに無理矢理戦争を始めたのとかなり近い理由で、日本の“危機
感”を煽っている映画と言える。
　とはいえ、原作者としては単に外敵に対する危機感を煽るつもりはなく、“国
民の精神性”みたいなものを問いたいのだと思う。そこで以下の議論。
　日本にはオタク文化というものがある。その中にはミリタリーオタクなんて言
うカテゴリーも存在して、テレビゲームじゃ飽き足らない人たちが実戦形式のバ
トルゲームを楽しんでいたりする。もちろん彼らは愛国思想とは距離を置いてい
るし、むしろ“自分探し”を動機として楽しんでいるのだと思う。あるいは逆に
無理矢理にでも（右翼団体とは距離を置きつつ）自分なりの「日本人像」を模索
しているのかもしれない。それを“平和ボケ”などと読んであっさりと一蹴する
人もいるが、平和のありがたみを忘れるくらい平和なことが真の平和ではないだ
ろうか。江戸時代の３００年の天下太平に比べたら、戦後６０年なんてその５分
の１に過ぎない。まぁ確かに明治維新後は常に欧米列強と緊張関係を保っていた
ことを考えると６０年は逆に長いとも言えるのだが。
　しかしこの話をしてるときりがないな（爆）。１カ所だけ泣ける箇所があった、
専任伍長とその部下の一等開始との友情が確認されるシーンである。それぞれ
ミッションは異なるが一緒に船を守った結果として生まれたものだが、とりあえ
ず素朴なヒューマンドラマを楽しんだことにしよう（苦笑）。