Hable con Ella / トーク・トゥ・ハー Pedro Almodo'var監督

　冒頭のPina Bausch舞踊団のパフォーマンス（ワンピースの下着姿の
老女２人が夢遊病のように踊り、１人の男がそれに翻弄される）にちょっ
が難解な印象を与えるが、果たして、ストレートに実に切ない素晴らし
いストーリーであった。つまり、現代版のロミオとジュリエットなのだ
（死ではなく昏睡を登場人物に与えるところなど）。女は眠り続け、男
は翻弄される。あるいは、女々しいまでに献身的に相手を慈しむ、どち
らも男の愛。
　それにしても、アルモドバル監督の映像と音楽のセンスと言ったら。
世界的な普遍性を持っている一方で、“スペイン的感性”が明確に出て
いて、東陽と西洋の歴史が入り混じったこの国の国民性でしか生み出せ
ない類の美しさを生み出している。例えば、女闘牛士の美しさ、カッコ
よさ。日本で言えばタカラヅカに近いものがあるかもしれない。美しい
女性が、闘牛という男性的な記号を身に纏うことで更にその美しさに強
さを与える様は、幻想かと思えるほどに美しい。
　個人的には更に、Caetano Veloso "Cucurrucucu' Paroma"の演唱にボ
ロ泣きした。実はこの曲、幼稚園から小学校入学にかけて、繰り返し愛
聴していたオヤジのレコードの１枚（Harry Belafonteの歌唱）。しかし
歌詞がこんなに悲しい物語だとは知らなかった。だから、ストーリーが
もたらす感情にこみ上げるものがあった、と言うより、幼少の頃からの
カタルシスに訳の分からない生理的な刺激があってどっと涙が溢れ出た、
と言う感じだった。もちろん、そんなカタルシスなしでも、この作品は
十分に心の琴線を揺さぶるものを持っている。
　以下余談、帰り道に高校生の間で噂の川嶋あいのストリート演奏に遭
遇することが出来た。制服のチェックスカートに襟のあるシャツで唄う
彼女、決してうまいとは言えないが、たたずまいと声がもたらす純粋無
垢さのオーラは際立つものがあった。ニュースで渋谷の異常性ばかりが
誇張される今日この頃だけに、なおさら彼女のピュアさが輝いている。
すでにファンもいる様子。チラシを配るスタッフもいたりして、プロダ
クションも付いているのだろうか。音楽性を買おうとは思わないが、彼
女の癒しオーラは保証してもいい（こんなこと書くとオヤジかなあ（苦
笑））。