From sana  Wed Jan 17 22:22:01 1996
Date: Wed, 17 Jan 1996 22:21:54 --900
From: sana (Cazou "ACID" Sanada)
Subject: [movie-fans:00161] Charles Bukowski

	The Tale Of Ordinary Madness	町でいちばんの美女
	directed by Marco Ferreri

  今朝のニュースで「ポケベルを盗んだ高校教師逮捕」というのがあった。自
分の学校の生徒ではなさそうだが、女子高生とのデートの約束をして、盗んだ
ポケベルに入った待ち合わせ場所に出向いたらお縄になったという、情けない
話。しかし僕は心の中で拍手喝采。たかがポケベル盗んだだけで女子高生とデー
トしたかった中年男の密かな願望は潰されただけにとどまらず、ＴＶニュース
で全国に生き恥を晒してしまったという、これ以上はないというコッ恥ずかし
い話にドキがムネムネした。何も僕は上辺のカッコ悪さをせせら笑っているの
ではない。いい歳して女子高生と付き合いたいという他愛のない欲望を素直に
行動にしてしまったそのオヤジ教師の純情ぶりに胸打たれたのである。（女子
高生のみなさんの心配には及ばない、こんな恥さらしなことが出来るオヤジは
滅多にいるものではないし、そもそも僕が賛美の言葉を贈ったところでこのオ
ヤジが釈放されることもない）

  で、チャールズ・ブコウスキーの原作を映画化したこの作品も、主人公はと
んでもないスケベオヤジである。音楽をほとんど使っていないので場面毎の盛
り上がりはあまりないのだが、やっていることはムチャクチャで、ヒゲヅラの
５０オヤジが１２歳の家出少女を口説いてみたり（あとで寝込んだ隙に金を盗
まれる）、町で見かけたケバ目の女性を尾行してレイプしたり（入浴中に警官
にショッぴかれる）、という具合。それぞれの事件の結末は情けないものであ
り、コミカルに描くことでこのスケベオヤジを優しい眼差しでカメラは追いか
けている。

  だがメインストーリーに登場する女性は「町でいちばんの美女」である。つ
まりこんなどうしようもない変態ジジイに若くて美しい女性が惚れるのである。
大人のオトギ話。その一方でこのオトギ話はなんともうまく現代の世相（？）
を表している。この女、やたらと自分の身体を傷つけまくり（特に頬に巨大安
全ピンを刺すシーンにはビビッた）、最後には喉を切って自殺する。でも実際
に今の女性（男性もだが）はボンデージブームで身体中に穴開けまくっている
わけだし、また、男の方もせっかくＮＹの出版社での好待遇の職の口を紹介さ
れながらも、整然としたオフィスを嫌がって、酔っ払って出勤してクビにされ
る。オフィスワーカーなら一度や二度はやってみたいシーンではないかな？

  最近はセルジュ・ゲインズブールやらこのチャールズ・ブコウスキーやら、
スケベオヤジがもてはやされている。これって結構日本的で平和なことじゃな
いかな？どこぞの国のシラク何たらみたいに「強さ」をアピールする男はロク
なことをしない。長い眉毛が可愛かったトンチャン元首相みたいに「疲れたか
ら辞めた」なんて情けない宰相の方が、住専問題みたいな政治手腕を必要とさ
れる問題は先送りにしながらも、戦後でも比較的長い部類に属する政権期間だっ
た訳だ。別にトンチャンがスケベオヤジなわけではないが（笑）、彼の「情け
ない」部分はゲインズブールやブコウスキーと同様の愛らしさがある。更に言
えば、「疲れたオトーサン」も見方を変えれば彼らみたいにもてはやされるか
もしれない。ただ、間違ってはいけないのは、もてはやされるとは若い子にも
てるということではなくて、情けない事件を起こして生き恥晒すことの美学（？）
が世間でちょっと認められる、という程度の話なのだが。

  とにかく、僕は彼らのstraightforwardな態度に強く共感する。女が強い時
代だとか、男がひ弱になった時代だとか、そんな屁理屈を並べる前に、僕はこ
れは僕らの時代の文化なのだ、と胸を張って言いたい。

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