「顔さえも分からない君へ」感想

　寝しなに彼のアルバムを聴いていたら、目頭が熱くなってきた。感動
して泣いた、と言うのとはちょっと違う、何と言うか、人生の苦労の小
さな積み重ねから背負ってしまった重荷がふと軽くなったような、そん
な小さいけれど本当の幸福が一瞬訪れたような感じだった。
　先週の渋谷DeSeOでのライブでこの人はスゴイ、と思ってアルバムを
買ったのだが、まさかライブ以上のパワーを録音メディアでしかないＣ
Ｄアルバムから感じられるなんて思わなかった。バックトラックのゴー
ジャスなサウンドなんて問題じゃない、彼の声だけが真実だった。
　こんな感動の仕方は何年ぶり、とかいう問題じゃない、３５年の人生
で初めてだ。自分を本当に癒してくれる音楽、と言うものが見つかった
と言うか（決して心に優しくなんかない、むしろ日常では感じられない
信じられない気持ちの高ぶりを引き出す歌が結局心を癒してくれたのだっ
た）。
　デビューアルバムにして２枚組。デビューシングルともなっている
「おかしい」は、曲中４個所もピー音で伏せられてしまった掟破りの社
会派ソング。そこまで真面目にやってしまうメチャクチャ正直でナイー
ブな歌。ピー音で潰された歌詞に切なさを覚え、気持ちの高ぶりのたが
をはずしてしまう。
　何人の人が心動かされるかは知らない、でも自分の心が動かされた、
その事実だけあれば、僕は彼を宇多田ヒカルよりも、椎名林檎よりも天
才だ、と信じられる。すごすぎるアーティストなので、皆に奨めたりは
しない。自分の耳で彼の歌の力を感じないと、意味のないことだと思う
から。ちなみに、このヘヴィな感動ゆえ、翌朝目覚しで起きれないほど
疲れてしまったことも言っておかねばなるまい、それだけ覚悟して聴く
必要があることを警告しておかねば。