「歌現象としての椎名林檎：アイドルポップス上の今日性とポジション」

1.前回の発表の要旨とそれに対する再評価
　前回の筆者の発表では「椎名林檎の歌謡曲性」と言うテーマについて
論じた。その後、椎名は妊娠により殆ど音楽活動を休止してしまったが、
妊娠後唯一のシングルリリース「真夜中は純潔」や彼女のフォロワー
（矢井田瞳、Ｃｏｃｃｏ他）を通じて残像を見ることは出来る。それら
から前回の発表の骨子に修正が生じているかどうかを考察する。
　第一に、筆者が「歌謡曲的」であると指摘したポイント（日本語指向
の歌詞、エロス、田舎臭さ、他）について、彼女のフォロワーがそれら
を後継しているかを比較して論じる。
　第二に、妊娠報告、妊娠後唯一のシングルリリース「真夜中は純潔」
がそれぞれリスナーに与えたインパクトについて考察する。

2.ヤンキー系対文芸系
　同時代のアイドルとして椎名林檎をモーニング娘。と対比考察する。
モーニング娘。は現代日本人のヤンキー性を代表しているが、一方で椎
名林檎はその対極＝文芸性にあると考えられる。両者のファンの文化的
自我のあり方について考察する。
　ヤンキー系では大人数のメンバーがそれぞれの役割を担ってステージ
パフォーマンスを展開する。また、ゴシップ誌や番組ASAYANでの彼女た
ちの音楽活動外でのエピソードは、きわめて今日的な日本社会の縮図と
なっており、ファンは“自分たちの日常生活と同じである”ことに共感
している、と推測される。
　一方、文芸系の特徴として、個性を重視し、イコン化から遠ざかる傾
向にあり、小室ソングで恋愛を離れ人生の応援歌的な楽曲を好んで聞く
ようになった世代の、更なる自我の目覚めではないか、と筆者は推測す
る。つまり、“自分らしさを持ち、周囲に流されずに幸福を得る”上で
の理想形を提示しているのではないだろうか。
　これらの論点について、発表では更なる考察を加えていく。