「蛇にピアス」蜷川幸雄監督@シネスイッチ銀座


<2008.10.11(Sat)>
 空に溶けてしまいたい気分になるのは、僕も同じだ。人生に希望なんてあるこ
と自体、すっかり忘れている。スクールの授業を受けている間にどんどん頭痛が
ひどくなっていく、最後は先生の言うことなんてまともに聞ける状態ではなかっ
た。それでも授業後に映画館に行くとは何か?取り憑かれていた訳ではないけれ
ど、こんな体調じゃ家に帰っても何も出来ない。
 さすがに世界のニナガワの作った作品だった。金原ひとみの原作の言葉の中の
痛みにBMフェティッシュ的、超現代的なドラマを読んでいたが、こちらは渋谷
下北と言う身近なエリアを舞台にしながら、施術のシーンなどではタトゥーのア
イコンの生きた世界そのままのギリシャローマ古代神話の世界に引き込んでくれ
る。金原さんの極私的世界から、世界目線の普遍的ミソロジーに仕上がってい
る。
 テーマは今日的なのに、音もセリフも抑えめで静謐な世界。BMと言う周辺的
なカルチャーを世間に受け入れてもらうきっかけにもなろう。逆に、ごく普通の
喫煙シーンが、今日ではBMと同じくらい神話的に映っていたのが興味深い。
 恋愛もフェティッシュな生々しいシーンから却ってスピリチュアルな高揚が浮
かび上がり、美しい。おとぎ話なので市井の人間にはちょっとマネできない物語
だが。でも少なくとも、死んだら泣いてくれる恋人がいることの儚い幸せ、と言
うのはごく身近なものだ。
 主演の吉高由里子がすごい、最初の登場シーンではただのギャルみたいな雰囲
気だったが、物語の展開につれドンドン美しくなっていく(逆にやつれていくは
ずのシーンでもキレイなのはどうかと思うがw)。声は幼い感じがするが、スク
リーンの中でドンドン変わっていく様が今後大化けする女優になる可能性を秘め
ている。
 と言うわけで、金原さんの原作小説が好きで観に行ったのだが、スプリットタ
ン、タトゥーをモチーフにまた別の物語が生まれた、という感じ。