[書評] 墨谷渉/パワー系181


<2007.10.31(Wed)>
 第31回すばる文学賞受賞作品。正直、生理的には読んでいて
辛いものがある作品である。だがその「キモさ」が現代社会の
居心地の悪さをかなり上手に切り取っているように思えて、リ
カの自室と言う密室の中で起こるマニアックな性的?交渉がリ
アルに立ち上がっている。
 携帯電話くらいは確かに登場するが、基本的にはネットワー
ク社会とは関係なくストーリーが進むが、大多数の読者にとっ
てこの奇妙な物語はネット上で繰り返されている不可解なドラ
マのように思えるであろう。つまり、ネットワーク社会の本質
がこの「キモさ」なのではないか、と感じたりする。
 もちろん、性的な変態性と言うのは個人の資質、感性による
ものである。だがそうであるにしても、現実社会だけでは抑圧
されている感情、生理であって、ネットワーク社会が登場して
初めて個人がリアルに内省し始めたり、実際に社会に表沙汰に
なったりするのではないだろうか。
 ここで感じる「キモさ」はだから、彼らの変態性そのもので
はない。変態性をネットワーク社会によって拡張され、抑え切
れなくなった彼ら彼女らの“哀れさ”がなんとも切なくてやり
きれなくなる、そう言うことではないだろうか。僕らが「切な
い」感情を抱くのは、今までであれば男女関係の終焉の時だけ
であった。しかしネット社会では、あちこちでヴァーチャルな
「切ない」出来事が多発する世の中になりそうである。と言う
か、男女関係の終焉では人は切なさを感じなくなる、そう言う
冷え切った時代の始まりなのかもしれない。