[BOOKREVIEW] 金原ひとみ／マザーズ

　彼女にとっての居心地の悪さは家庭環境とか職場環境とか人間関係とかもある
が、その前に女であること、身長が170cmしかないこと。生理的コンプレックス
と人間関係の二重の苦痛をやり過ごすドラマ。
　現在は作者の金原さんも一児の母、３人の母親が主人公のこの物語でも子育て
シーンがたくさん出てくる。その一方で今までと変わらない男をとっかえひっか
えする奔放さ、非合法寸前の薬物の話が出てくるアウトロー性。日常と非日常と
が同じ平原上に描かれると言う新たな地平を手に入れたひとみさんの意欲作。
　と言うか、極めて攻撃的な子育て感（虐待寸前を行ったり来たり状態）を提示
しながら、世の中の事件の方がよほどおぞましい表層を呈している現代。感覚的
な文章の中に、恐ろしいまでに現代の子育てママ事情を写実する金原さんの卓越
した文章力。
　男と女で背負うもの、感じ方にズレがあるのは当然としても、ここにあるのは
現代社会が暴力とは別のやり方で生身の人間を深く傷つける世の中になったこと
を感じる。家族で子どもを守れる時代ではなくなり、夫も離婚していない、保育
施設で思わぬ怪我をする、と言うリアルな展開。奔放だった時代から突然激しい
生存競争が待ち構えている生活。そこには、いわゆる経済的格差だけでは説明で
きない、人間がある日突然生身の人間として傷ついて行く様がリアルに描かれ
る。ある意味、これはホラーなのかもしれない。もはや精神的痛みでは済まな
い、血を流すような激しい生活が誰にでも待ち受けていることを警告する物語
だ。
＃結局入院中には読了出来ませんでしたが、いったん入院中に読んだ記録として
＃途中までの感想をアップします。