「ハイドラ」＆「ミンク」

・ハイドラ（「新潮」２００７年１月号収録）
　なんだか物語のシチュエーションがひとみさんらしくない。トレンディドラマ
的、少女コミック的なステレオタイプのモチーフだ、という印象が先行してし
まって十分に楽しめなかった。たとえば、あまり身近には居そうになさそうなカ
タカナ職業のセレブと呼ばれる人物が沢山登場するし、あるいはバンギャルを彷
彿とさせるような少女コミック的ロックバンドメンバーとの恋愛。そして、二股
恋愛で大したトラブルもなしに元のさやに戻ってしまうアッサリ感（まぁドロド
ロだったらそれはそれでまたひとみさんらしくないと思うだろうけど）。しかし
それにも増して一番「らしくない」のは、主人公の妄想で恋愛狂を表現する、と
言うひとみさんならではの独自な表現技術を使用せず、美月との安っぽい会話の
中でそれを表現しようとした、というところ。トレンディー性への接近と言う
チャレンジは評価してよいけど、ひとみさんらしさには欠ける作品。

・ミンク（「文學界」２００７年１月号収録）
　笑える、最高です。そうなんだ、ありふれた日常にこそこんなにも滑稽で笑え
るシーンは沢山ある。それを主人公の幼少時のトラウマと絡んだ）妄想との境界
を行き来しながら、将棋倒し的にドジ話が展開していく様は、さながら花やしき
の民家のそばを通り抜けるときのスリルに近い。それでいて下世話な印象を与え
ず、金原ひとみワールドを十分に展開しているので、ファンとしては読んでいて
楽しくて仕方ない作品。