風味絶佳／山田詠美

 岩佐真悠子ちゃんの出演映画の原作と言うことで読み始めた。とは
言え、読んで後悔した、だってオチが分かってしまったから（そんな
の当り前だろ！）。
 山田詠美と言うと、デビュー当初の（今で言う）エロカッコいい系
の作風と言う印象が強かったが、もう文壇デビューして２０年になる
という、今回の作品は肉体労働者系の職人にスポットを当て、中高年
の恋愛を描写している。
 もちろんテレビドラマのような薄っぺらな恋愛に比べれば、ここで
描かれている恋愛は凝った刺繍の入った絨毯のように、じんわりとし
た味わい（これを作者は「絶佳」と称している）がある。とは言え、
私は職人たちの公の場でのカッコよさとは裏腹に、恋愛では見事なや
さしさ（もちろん子供っぽい表面的な優しさではなく、人生の悲哀を
重ねた上で煮汁のように染み出てくるやさしさなのだが）に照れを感
じてしまう。その意味ではストレートに「春眠」の章造に共感してし
まう、と言うか、思わず鼻白んで本を閉じてしまったことも。自分も
中高年と呼ばれておかしくない齢を重ねておきながら、このようなオ
ヤジのツンデレ（言葉の使い方がちょっと違う気もするが:-)）っぷ
りに違和感を覚えざるを得ない。まぁそれを言ったらこの歳での恋愛
そのものに照れがあるのだとも言えるが。
 いや、恋愛と言う、いわば新しい人間関係の構築に対して、歳を取っ
たからと言って逃げ腰になってはいけない、と言うのを一つのメッセー
ジとして受け止めるべきなのかもしれない。それは外側から見ると今
述べた感想のように鼻白むものであっても、だ。そう言う人間を理解
できたら、きっとこの短編集の登場人物たちが輝いて見えてくるのか
もしれない。
 あと、しつこくされることで折れる女が何人か描かれている。私は
いまだにそう言うのが理解できない。しつこくすることで受け入れて
くれた女性など人生経験の中でただの一人もいなかったし、自分自身、
しつこくされてそれがうれしかった経験もまたない。まぁこんな体質
では乏しい恋愛経験しかないのも当然と言えば当然なのだが。